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株式・株主総会(Ⅱ)-取締役解任

支配権争いの結果として、取締役の解任に至る場合があります。もちろん、それ以外の理由(例えば不祥事の発覚、横領や背任等)で取締役を解任しなければいけなくなるケースもあります。以下では、その手続を説明していきます。

 

1. 取締役の解任手続

取締役の解任とは選任者の一方的な意思表示で職務を解くことをいい、取締役の自発的な意思によって取締役の職務から退く辞任、任期切れにより自動的に取締役の食を退く退任とは違います。

 

取締役の解任は株主総会の決議によって行います。

 

株主総会による解任はいつでも行うことができ、解任のための特別な理由も必要とされません。解任のための株主総会の決議は取締役の選任の場合と同様、過半数の決議(普通決議といいます)で足ります。

 

取締役の解任は定時株主総会でも臨時株主総会でも行うことができますが、解任決議の定足数については3分の1以上としなければならず、定款によってもこれを下回る割合とすることはできません。

 

また、会社が株主に対して株主総会参考書類の交付をする場合、解任される取締役の氏名と解任の理由を記載する必要があります。

 

なお、少数株主による取締役選任権の確保の観点から、累積投票によって選任された取締役を解任する際の決議要件は普通決議ではなく特別決議とされています。また、種類株主総会で選任された取締役を通常の株主総会の決議で解任することは原則としてできません。

 

 

2. 解任の通知

このように取締役の解任は株主総会の決議によって行いますが、解任の効力を発生させるために当該解任の事実を解任された取締役に通知する必要があるか否かについては見解が分かれていますので、実務上は通知しておくのが安全であるといえます。

 

解任をするようなケースにおいては会社と取締役が対立していることが多く、取締役は自らの解任を決議する株主総会には出席しないのが通例ですので、会社としては解任された事実を伝えるとともに、今後は取締役として活動をしないよう通知しておくべきでしょう。

 

 

3. 解任の訴えによる方法

取締役の職務執行に関し不正の行為又は法令・定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、当該取締役を解任する旨の議案が株主総会で否決されたときには、解任の訴えによって取締役を解任することができます。

 

しかし、仮に解任の訴えが認められて取締役が解任されたとしても、多数派株主が同一人物を取締役として再任することは妨げられません。また、解任の訴えの係属中に解任の対象となる取締役が任期満了で退任し、再度株主総会で選任された場合には、取締役は新たに株主から信認を得たものとして解任の訴えは却下されます。そのため、解任の対象となる取締役が多数派株主によって支持されている場合、解任の訴えによって目的を達成することは困難です。

 

 

4. 解任された取締役の損害賠償請求権

解任された取締役は、その解任について正当な理由が、会社に対して解任によって生じた損害賠償を請求することができます。

 

取締役として任期の期間中は職務の対価としての報酬を得られるとの期待権を有していたので、損害賠償請求権が認められます。その金額は、残存任期中に得られたはずの役員報酬と任期満了時に得られたはずの退職慰労金(退職慰労金について定款の定めや株主総会決議等がある場合)となります。

 

 

5. 解任の正当な理由

解任について正当な理由がある場合には、取締役は解任によって生じた損害賠償を請求することができませんが、その正当な理由とは以下のものです。

 

・健康悪化により職務の執行に支障がある場合

・法令・定款に違反する不正な行為を行った場合

・職務の能力を欠き著しく不適任である場合

 

それ以外に、取締役の経営判断の失敗が正当な理由に含まれるかについては見解が分かれていますが、裁判例では、一般論として経営判断の誤りによって会社に損害を与えた場合も正当な理由になると述べ、取締役としての適格性を欠くことや投機性の高い取引の失敗を経営判断の誤りであると指摘して正当な理由ありと認めたものがあります。

 

取締役相互間の対立又は株主と取締役の対立が原因で取締役が解任される事例が見受けられます。取締役の側に重大な落ち度があるような場合には正当な理由が認められますが、単なる経営方針の食い違いや人間関係の悪化は正当な理由として認められにくいということになります。正当な理由の立証責任は会社側にありますので、会社側としては、慎重な運用に心がけるべきです。

 

 

6. 使用人兼務取締役を解任する場合

取締役が使用人を兼ねる取締役(使用人兼務取締役)である場合、取締役を解任しても、使用人としての雇用関係が残ります。解任された取締役が、任意に退職に応じれば問題ありませんが、そうでない場合には解雇をすることが必要になります。使用人としての立場は労働法で保護されており、解雇には厳しい要件を満たす必要があるので、この点は要注意です。

監修者

植田統

植田 統

1981年、東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。
ダートマス大学MBAコース留学後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルティングを担当。
野村アセットマネジメントで資産運用業務を経験し、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。
レクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長を務め、経営計画立案・実行、人材マネジメント、取引先開拓を行う。
アリックスパートナーズでライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当。
2010年弁護士登録後、南青山M's法律会計事務所に参画。2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を講義。数社の社外取締役、監査役も務める。

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