経営者にとってもっとも重要なことは、株式の議決権の51%以上をコントロールし、必ず自分が代表取締役の地位を守れる状態を確保しておくことです。

株主総会は会社の最高の意思決定機関で、取締役の選任・解任の議決は、過半数で決まります。そして、その取締役で構成される取締役会での代表取締役の選任の議決は多数決で決まります。

取締役会での議決権は、取締役一人に一票です。代表取締役であるから、2票持てるものではなく、また、株式をたくさん持っていても、取締役としては一票しか行使できません。

ですから、まず経営者としては、取締役の半数超が自分派の人で固められていないといけません。5名の取締役会なら必ず3名は自分派でなければ、自分が代表取締役に選ばれるかどうかわからなくなります。

また、代表取締役の解任動議が出されると、代表取締役自身は議決に参加できなくなります。残りの4名で、解任の議決をすることになり、3名が賛成すれば解任成立になります。つまり、2名が反対してくれれば、解任は成立しません。

ですから、やはり自分を含めて3名が自分派であれば、大丈夫のように見えますが、自分派だと思って選んだ取締役が変節することもあります。

これを考えると、お小言を言ってくれる取締役は5名のうち1名とし、4名は自分派で固めておくのが得策です。

多くの経営者は、自分が代表取締役を解任されること等起こるはずがないと思っていますが、取締役が造反する場合がありますので、取締役の構成には十分に注意を払っておく必要があります。

①株主間・取締役間紛争の解決事例1-社長解職の緊急動議が成立した後、取締役構成が2:2となり経営がデッドロック状態に陥った事例
②株主間・取締役間紛争の解決事例2-株式譲渡の手続きの不備により親から子への株式譲渡が無効となった事例
③株主間・取締役間紛争の解決事例3-支配権を取り戻そうとした親が支配権を持つ子に無断で発行した黄金株、属人株の議決権が停止され、子が経営権を守り切った事例

株主間・取締役間紛争の解決事例-1

創業者であった祖父が死亡し、その後株式は50%ずつ長男と次男に相続され、さらにそれが長男の息子A1に50%、次男の息子B1に50%相続されました。つまり、いとこ同士で50%ずつ株式を持ち合う形になりました。取締役の構成は、A1、B1、B1の妹のB2となっていました。B1が先に社長を務めた後、B2の夫B3に社長の座を譲ることになりました。B3が代表取締役になる代わりにB2は取締役を下り、A1の息子A2が取締役に就任することになりました。これで、A1とA2という派閥とB1とB3という派閥により、2:2の取締役構成になりました。

A2はB3を解職して自分が社長になり、会社の財産を自分の好きにしようと考え、取締役会で突然B3解職の緊急動議を出しました。取締役の構成は、A1、A2、B1,B3の4名ですが、B3は特別利害関係があるので、代表取締役解任の議決には参加できません。
B1は取締役会で反対しましたが、A1,A2が賛成したので、B3解職動議は2:1で通ってしまいました(B3は代表権を失っただけで、取締役としては残っています)。

A2はB1を解職して自分が社長になり、会社の財産を自分の好きにしようと考えたらしく、取締役会で突然B1解職の緊急動議を出しました。取締役の構成は、A1、A2、B1,B2の4名ですが、B1は特別利害関係があるので議決に参加できません。B1は反対しましたが、A1,A2が賛成したので、B3解職動議は2:1で通ってしまいました(B3は代表権を失っただけで、取締役としては残っています)。 

その後、B3から当事務所の弁護士が依頼を受け、B3を職務代行者として社長の座に返り咲かせることには成功しました。これで当面の経営の継続は可能となったのですが、取締役会が2:2で対立した状況では、取締役会で決議ができません。そこで、B1がA1から株式を適正価格で購入する旨を申し入れたのですが、A1は意固地になって頑としてこれを受け入れませんでした。

いい会社だったのですが、A1とB1が50%ずつ株式を持ったままでは、双方の対立を収拾することはできず、この会社は、残念なことに事業を停止し、解散して残余財産をA1とB1で分けることになってしまいました。

株主間・取締役間紛争の解決事例-2

前社長で50%超の株式を持ち続けていた父が、社長として経営を継いでいた長男に株式を譲ってやると言ったので、顧問税理士がその手続を進めました。株券発行会社であるのに株券の交付を忘れ、また、父から長男への贈与だから、書面を作らなくてもよいだろうということで、株式譲渡契約書の作成も怠りました。

その上、この顧問税理士は、父が長男へ株式を譲渡すると言ったにもかかわらず、贈与税の節税のため、長男だけでなく長男の家族への株式の名義書き換えを行ってしまいました。

その後、会社が所有していた土地の価値が再開発により、大幅に上昇したため、長男だけが、その恩恵を享受するのはおかしいと考えた長女に焚きつけられた父は、株式が今でも自己に帰属するとの株主権確認訴訟を起こしてきました。

長男は株式を譲り受けて経営を継続したかったので、何とかならないかと当事務所の弁護士に依頼してきました。弁護士は、株券交付もなく、また、株式譲渡契約書も存在しないため、勝ち目のない訴訟であると思いましたが、粘り強く父側からの主張に反論し、何とか最終的に和解交渉で株式を買い取る方向で和解をまとめることに成功しました。

株主間・取締役間紛争の解決事例-3

社長である父が創業した会社に、後継者含みで入社した長男が15年ほど勤務して、父の信頼を勝ち得、常務に昇進させてもらい経営を任されるにようになりました。ところが、それ以降、父と長男の経営方針が対立することが多くなり、それを不満に思った父が長男を会社から追い出そうとしたケースです。

父は若い時から徐々に長男へ株式を譲渡し、紛争になった時には、50%以上の株式を長男が所有していました。父は、自分が代表取締役の地位にとどまり、虚偽の株主総会議事録を作成し、登記もできるという点を悪用し、長男に無断で父に黄金株(取締役の選任・解任等の重要事項について拒否権をもつ株式)を発行させる株主総会議事録、父所有の株式を属人株(1株について父に複数個の議決権を与えるというもの、この結果株数は少なくても議決権数では長男を上回る状態にした)とする株主総会議事録を作成しました。本来、長男の出席なくしては、株主総会は開けないのですが、父は、株主総会議事録を勝手に作成し、あたかも黄金株の発行と属人株の設定があったかのような外観を整え、黄金株については登記を、属人株についてはそれを規定した定款を作成してしまいました。

これに気が付いた長男から当事務所の弁護士が依頼を受けました。弁護士は、議決権行使禁止の仮処分、新株発行無効請求、株主総会決議の不存在確認請求訴訟等のあらゆる会社法上の救済手段を利用して、黄金株、属人株を取り消し、長男が50%以上の株式と議決権を持つ元の状態に戻すことに成功しました。その後、長男が株主総会を開いて、父を代表取締役、取締役から解任し、会社から追い出し、長男の経営権を取り戻すことに成功しました。