①相続・遺産分割その1:遺言
②相続・遺産分割その2:相続人の範囲
③相続・遺産分割その3:遺産分割
④相続・遺産分割その4:遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)
⑤相続・遺産分割その5:特別受益
⑥相続・遺産分割その6:遺言無効確認請求

超高齢化社会の到来に伴い、遺言、相続、遺産分割の案件が増えてきています。高齢になった方は、自らの遺志を明らかにするために遺言を作成します。遺言を作成されずに亡くなられた方の遺産は、民法に従って、法定相続分で相続人に分割されます。しかし、民法で決まっているのは、2分の1とか4分の1という比率だけです。相続税納税については、土地の評価は路線価、建物は固定資産税評価で決まりますが、相続人間で争いになると土地や建物の評価も時価となります。時価がいくらかについては、一義的には決まりません。ですから、具体的に誰がどの遺産を相続するかについては、遺産分割協議を行っても、合意できないことが多々あります。さらに、一度、遺産分割が終わっても、後日、遺言や遺産分割が争われる場合もあります。相続・遺産分割をめぐる手続は非常に複雑です。

①相続・遺産分割その1:遺言

遺言書があった場合、遺言書で受取人として指定された相続人等と遺言執行者は遺産分割協議をせず、他の相続人に同意を求めることなく、相続手続きを進めることができます。被相続人が亡くなって相続が発生したら、最初に相続人が確認しなければいけないのが、遺言書を残しているのかどうかです。遺言書は、被相続人が自分の財産をどのように相続人または相続人以外の者に承継させたいと望んでいたのか、被相続人の最後の意思表示になるため、相続人の意思(遺産分割協議)よりも優先されることとなります。遺言では、法定相続分とは関係なく、遺言者の意思で相続させる人とその相続分を指定することができます。

例えば、配偶者と子が2名いる場合でも、「一人の子にすべての財産を相続させる」とすることは可能です。また、同じ配偶者と子2名がいる場合に、亡くなる前は別居状態で別の女性と一緒に住んでいて、「その女性に自分の財産をすべて相続させる」とすることもできます。遺留分の問題は生じますが、それは遺留分を侵害された人が請求をして初めて問題になります。つまり、被相続人の意思で自分の財産を相続させる人を自由に決めることができます。

その遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。

A 自筆証書遺言

自筆証書遺言は、自分で紙に書き記す遺言書のことで、紙とペンと印鑑だけでもあれば、誰でも気軽に作成が可能です。費用もかかりません。そのため、遺言書としては一番多く利用されています。しかし、書き間違えや遺言内容が曖昧で遺言書として無効になってしまったということがあるので注意が必要です。自筆証書遺言は、以前は全部自筆で作成する必要がありましたが、

B 公正証書遺言

公正証書遺言とは、遺言書を公証役場で公正証書にしたものです。公証役場にいる公証人と呼ばれる人が、法律の規定どおりに公正証書として書類を作成するので、確実に有効な遺言書を残したいときに利用されます。実際には、弁護士がドラフトを作成し、公証人と内容を詰め、クライアントの方と公証役場に行って作成するという手続きが一般的です。

C 秘密証書遺言

秘密証書遺言は、公正証書遺言と同じく公証役場で作成手続きをします。しかし、遺言内容は公証人に知られずに作成できるので、絶対に亡くなるまでは秘密を守りたい、誰にも内容

を知られたくないという場合に利用されています。実務上はあまり使用されることはありません。

D 遺言書作成に必要な資料

いずれの遺言書を作成する場合でも、自分にどのような遺産があるのか把握する必要があるので、以下のような財産に関する資料を集める必要があります。

・不動産の登記簿(全部事項証明書)
・預貯金通帳、取引明細書
・証券会社やFX会社、仮想通貨交換所における取引資料
・ゴルフ会員権の証書
・生命保険証書
・絵画や骨董品など動産の明細書

②相続・遺産分割その2:相続人の範囲

法定相続人になるのは、配偶者と子ども、両親、兄弟姉妹です。

被相続人の配偶者、つまり夫や妻は常に法定相続人になります。ただし、あくまでも法律上の婚姻関係にある配偶者に限られ、内縁関係の夫や妻は相続人になることはできず、逆に、相続発生時に配偶者と別居中あるいは離婚調停中だったとしても、法律上婚姻関係がある限り配偶者が法定相続人になります。

それ以外の相続人については下記のように順位が定められています。

第1順位は、直系卑属(子ども、孫など)、第2順位は直系尊属(親、祖父母など)、第3順位は兄弟姉妹と定められており、第1順位の者がいれば、その人が相続人となり、第2順位、第3順位の人にはいきません。第1順位の人がいなければ、第2順位の人に相続権が発生します。

配偶者と子1名が相続人の時は、配偶者が2分の1、子が2分の1、配偶者と子2名が相続人の時は、配偶者が2分の1、子が4分の1ずつというように、法律で相続分が決まっています。配偶者がなく、子1名だけであったときは、子が100%相続します。配偶者も子もなく亡くなった時は、直系尊属つまり親に相続権が生じます。親がいなければ、兄弟姉妹に行きます。兄弟姉妹が既に死亡している場合、その子(亡くなった人から見ると甥、姪)がいれば、その子に相続権が生じます。甥、姪も無くなっている場合には、その子がいても相続権はありません。

これが相続の仕組みですので、身近な方が亡くなった時には、誰に相続権があるのか、その相続分がどうなるのかを、まず把握する必要があります。

③相続・遺産分割その3:遺産分割

遺言書がある場合には、遺言執行者がそれに従って遺産の分割を進めていきますが、遺言書がない場合には、法定相続分に従って、相続割合が決められます。2分の1とか4分の1とかいうものです。

しかし、被相続人の財産は、土地とか建物とか預金とか有価証券とか種々雑多なもので構成されています。預金や有価証券は、一義的に金額がわかるので問題ないのですが、土地とか建物を金額に換算する方法はいくつもあります。相続税納税のために使用する固定資産評価、路線価等もあれば、時価という指標もあります。その上、土地や建物は、2分の1とか4分の1に分けることができません(共有持分で2分の1持つ、4分の1持つという方法はありますが)。そのため、相続人間で話し合いをして、具体的に誰がどの財産を取得するかを決めていく必要があります。

ところが、この話し合いは簡単にはまとまりません。相続人誰もが、少しでも多く財産を取得しようとするので争いが起こります。財産の評価をめぐってもめることもありますし、長男が長男風邪を吹かせて、他の兄弟よりも多くの財産を取得しようと画策し、紛糾することもあります。

こうして紛糾してしまった場合には、弁護士に依頼することになります。相続人からの依頼を受けた弁護士が協議することになるので、結果的には客観的に公平と思われる遺産分割に着地することが多いようです。

遺産分割の話し合いがまとまると、遺産分割協議書を作成します。

④相続・遺産分割その4:遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)

遺留分とは、法定相続人の最低限の遺産の取り分を定めるものです。相続において、法定相続人の順位と範囲が決められているのは、相続財産によって残された家族の生活保障をする趣旨もあるので、被相続人と一定の繋がりのあった人たちに関しては、遺留分として最低限の遺産を取得する権利を保証しようとするものです。親以外の相続人については、法定相続分の2分の1、親は法定相続分の3分の1と決まっています。兄弟姉妹には、遺留分はありません。

2019年7月1日以前は、遺留分減殺請求と呼ばれていました。例えば、親が亡くなり、配偶者がなく、子A,Bの2名が法定相続人となっていた場合を想定します。その唯一の財産が親の経営する会社の株式であった場合、遺言に「すべての株式は子Aに相続させる」と書かれていても、子Bが遺留分減殺請求をすると、株式の2分の1の権利が子Bに帰属することになると解されていました。これでは、子Aは会社の経営権を子Bを分け合うことになってしまうので、せっかく親が子Aに会社の経営を任せようとした意思が実現できません。そこで、2019年7月1日に民法が改正され、遺留侵害請求は遺留分侵害額請求と呼ばれるようになり、金銭的な補償を請求できる債権に変わりました。つまり、株式の2分の1の評価が1000万円であったとすると、子Bは子Aに1000万円という金銭を請求できるだけになったということです。子Aは100%の株式を相続し、100%の経営権を維持できるようになりました。

遺留分侵害額請求は、遺留分を侵害された者が侵害額を請求して初めて権利となるので、請求がなければ、親の遺言のまま遺産分割が行われることになります。

相続が起こり、自分の遺留分が侵害された人は、「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から」1年以内に権利を行使しなければならないので、速やかに手を打つ必要があります。

弁護士に依頼して、まず内容証明郵便を出し、その後、遺留分侵害額請求訴訟を提起していくのが、通常の進め方です。

⑤相続・遺産分割その5:特別受益

特別受益とは、複数の相続人がいる中で、一部の相続人だけが被相続人から生前贈与や遺贈、死因贈与で受け取った利益のことです。相続人の誰かだけが故人の生前に財産をもらっているのは不公平だと考えられるので、特別受益の持ち戻しという制度が設けられたのです。

特別受益の対象となる人は相続人に限られます。従って、相続人以外の人が故人の生前に財産をもらっていても特別受益にはなりません。亡くなった人が生前、友人の事業を助けるために1000万円贈与していたとしても、特別受益とはなりません。相続人でない孫への教育資金の贈与も特別受益にはなりません。ただし、相続人でない人に行われた多額の贈与が相続財産の一定割合以上であるなら、相続人はその人に対し遺留分侵害額請求を行えます。

配偶者も相続人ですから、特別受益の対象になります。2019年7月1日以前は、20年以上連れ添った配偶者に対する2000万円までの居住用不動産か、それを購入するための資金の贈与もその対象とされていました。しかし、2019年7月1日以降は、これは持ち戻さなくてもよいことになりました。この場合も、他の相続人の遺留分を侵害しているなら遺留分侵害額請求の対象になります。

⑥相続・遺産分割その6:遺言無効確認請求

遺言無効確認請求とは、遺言について、それが種々の理由により法律的に無効であることを裁判所に確認してもらうための裁判手続きです。なぜこれを取り上げるかと言えば、親の遺言の内容が、例えば3人の子A、B、Cのうち、Aにだけ多大な財産を相続させるという内容であった場合等、B、CがAが親をだまして自分だけに有利な遺言を書かせたのではないか、親が認知症になっていることを利用して自分だけに有利な遺言を書かせたのではないかと考えて、遺言無効確認請求を提起してくる例が増えているからです。

遺言無効確認請求訴訟では、様々な無効原因が主張されます。よく見受けられる無効原因としては、以下のようなものがあります。

a.遺言能力の欠如

遺言が有効に成立するためには、遺言者に遺言能力が必要です。遺言者が認知症であり、遺言をするための判断能力を欠いていたという主張がなされます。

b.証人欠格

公正証書遺言や秘密証書遺言をする場合には、2人以上の証人が必要となります。ところが、推定相続人や受遺者等は証人となることができないと定められています。そのため、こうした証人欠格者が遺言作成に関与していたときは、2人以上の証人の要件が満たされていないことになり遺言書は無効となります。

c.方式違背

民法は、遺言が遺言者の真意に基づいてなされたことを担保するため、厳格な要式を定めています。この要式に違反した遺言については無効となります。自筆証書遺言を遺言者自身が書かずに、誰かに代筆させた場合等がこれに当たります。

d.共同遺言

民法では、2人以上の者が同一の証書でする共同遺言を禁止していますので、これに反した遺言は無効になります。

e.遺言の「撤回の撤回」

民法は、一度撤回された遺言については、撤回行為が詐欺又は脅迫によるものでない限り、その効力は回復しないと定めています。撤回の撤回は認めないのです。判例では、遺言書の記載に照らして、遺言者の意思が原遺言(元の遺言)の復活を希望することが明らかなときは、遺言者の意思を尊重して原遺言の復活を認めていますので、この例外の適用の有無が争点となることもあります。

f.詐欺・脅迫による遺言取消

遺言が他人からの詐欺・脅迫によりなされた場合、その遺言を取り消すことができます。遺言も意思表示の一種ですので詐欺・脅迫による取消権の行使が可能なのです。

g.錯誤による取消

遺言者が遺言をするにあたり、重要な事実を誤認していた場合には、当該遺言内容は遺言者の真意を反映していないことになるので、この場合にも取消を行うことができます。

h.公序良俗違反による無効

遺言者は、遺言により原則として自由にその財産を処分することができますが、遺言内容が、社会常識に反し是認することができないものである場合には、公序良俗違反により、その内容は無効となり得ます。遺言者が不倫関係にある愛人などに遺産をすべて譲り渡すような遺言をした場合です。

遺言無効確認請求は家事事件ですので、原則として家事調停を経る必要があります。そして、調停が不調に終わった時に、訴訟を提起することになります。

遺言無効確認請求訴訟では、当事者による事実関係の主張とその主張を裏付ける証拠がポイントになります。遺言を作った時点の証拠を見つけ出さないといけないので、非常にハードルが高いのです。例えば、遺言者が認知症であったという理由で遺言無効を主張する原告は、認知症の診断書等を探し、それがない場合には、遺言者の精神的状況を知っていた家族を証人として、それを立証していこうとします。その過程で、文書送付嘱託という方法によって遺言者の入院先からカルテの開示を求めることもあります。また、自筆証書遺言の自書性が問題となる事案などでは筆跡鑑定が行われることもあります。

遺言無効確認請求訴訟は、非常に難易度の高い訴訟ですので、経験を有する弁護士に依頼するべきでしょう。