相続・遺産分割-遺留分侵害請求

遺留分とは、簡単にいえば、法定相続人に最低限相続できることが保障されている相続分のことです。相続制度には、遺族の生活保障や潜在的持分の清算という機能もあるので、相続財産の一定割合を相続人に留保する制度が作られたのです。 

 

遺留分は、遺言書によって不公平な相続分の指定が行われ、他の相続人と比較して非常に少ない財産しか相続できない相続人がいる場合、一部の相続人に対して過大な生前贈与や死因贈与が行われた場合などに問題となります。 

 

こうした時に、遺留分を侵害された相続人は、遺留分を侵害している相続人に対して遺留分侵害額請求権を行使することになります。 

 

遺留分を有するのは「兄弟姉妹以外の法定相続人」ですので、①配偶者(常に遺留分権利者)②子(代襲相続人を含む)③直系尊属(子と子の代襲相続人がいない場合に限る)が権利者となります。 

 

1)遺留分侵害額請求権は、遺留分を侵害された法定相続人が、受遺者(特定財産承継遺言により財産を継承し、又は相続分の指定を受けた相続人を含む。)又は受贈者に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求できる権利です(民法第1046条第1項)。 

 

2)遺留分侵害額請求の対象となる遺贈・贈与とその順序 

遺留分侵害額について、受遺者又は受贈者がどの範囲で負担するかは、民法でその対象と順序が決まっています。 

 

具体的には、以下の順序に従って遺贈・贈与を順位付けした上で、上位の遺贈・贈与を受けた人から順に、遺留分侵害額請求に対応した金銭の支払い義務を負担します(民法第1047条第1項)。 

 

①受遺者と受贈者とがあるときは、受遺者が先に負担する。 

②受遺者が複数あるとき、又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは、その目的の価額に応じて負担する(ただし、遺言で別段の意思表示がある場合は、その意思に従う)。 

③受贈者が複数あるとき(②に規定する場合を除く。)は、後に贈与を受けた者から順次、負担する。 

 

 

なお生前贈与については、相続人に対して行われたものは10年間、相続人以外に対して行われたものは1年間に限り、相続開始からさかのぼって遺留分侵害額請求の対象となります。また、この場合の相続人に対する贈与とは、婚姻もしくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与に限ります(民法第1044条1項、3項)。 

 

3)遺留分侵害額請求権の消滅時効・除斥期間 

遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないと、時効により消滅してしまいます(民法第1048条第1文)。 

また、相続開始の時から10年間が経過した場合、遺留分侵害額請求権は除斥期間により消滅します。 

 

したがって、消滅時効・除斥期間により遺留分侵害額請求権が行使できなくなってしまう前に、早めの対応を行う必要があります。 

 

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4)遺留分侵害額の算定方法 

遺留分侵害額は、以下の計算式により算定されます。 

 

遺留分=遺留分を算定するための財産の価額×総体的遺留分率×遺留分権利者の法定相続分 

遺留分侵害額=遺留分額-遺留分権利者が受けた遺贈又は特別受益の額―具体的相続分(寄与分を除く)に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額+相続債務のうち遺留分権利者が負担する債務の額 

 

 

ひとつ具体例を考えてみましょう。 

 

<事例> 

遺留分を算定するための財産は3000万円 

法定相続人は配偶者Aと子B・Cの計3人 

特別受益はなし。 

被相続人に債務はなく、遺言書による相続分の指定は以下のとおり 

  A:300万円 

  B:2500万円 

  C:200万円 

 

 

上記の事例で、AとCの遺留分侵害額を計算してみます。 

 

法定相続人は配偶者Aと子B・Cの計3人なので、総体的遺留分率は2分の1です(民法第1042条第1項第2号)。 

そして、Aの法定相続分は2分の1、Cの法定相続分は4分の1です(民法第900条第1号、4号)。 

 

したがって、A・Cの遺留分は以下のとおりです。 

 

Aの遺留分=3000万円×2分の1×2分の1=750万円 

Cの遺留分=3000万円×2分の1×4分の1=375万円 

 

 

上記の遺留分の金額から、実際の相続分を差し引くことにより、A・Cの遺留分侵害額が求められます。 

 

Aの遺留分侵害額=(遺留分)750万円-(具体的相続分)300万円=450万円 

Cの遺留分侵害額=(遺留分)375万円-(具体的相続分)200万円=175万円 

 

 

よって、Aは450万円、Cは175万円を、それぞれ遺留分侵害者であるBに対して請求することができます。 

3、遺留分侵害額請求権と遺留分減殺請求権の違い|2019年相続法改正 

2019年7月1日に施行された改正民法(相続法)により、従来「遺留分減殺請求権」と呼ばれていたものが、「遺留分侵害額請求権」へと名称・内容が変更されました。 

 

民法改正により、遺留分侵害額請求権についてどのような点が変更になったのかを解説します。 

 

1)現物返還から金銭による精算へと変更 

もっとも大きな変更点は、遺留分侵害の精算を現物返還(現物分割)ではなく、金銭で行うべきとされたことです(民法第1046条第1項)。 

 

従来は、遺留分減殺請求によって、遺贈又は贈与は遺留分を侵害する限度において失効し、目的物の所有権等の権利は、当然に請求者に帰属することとされていました。 

 

一方、民法改正後の遺留分侵害額請求権においては、遺留分侵害の精算は金銭の支払いによることで一本化されました。 

 

2)遺留分侵害額請求権のメリット|権利関係がシンプルに 

精算が金銭の支払いに一本化されたことのメリットは、権利関係が複雑になることを防ぐことができる点にあります。 

 

現物返還による遺留分侵害の精算を行うと、減殺請求の結果、目的財産は受遺者又は受贈者と遺留分権利者との共有になることが多く、目的物の円滑な処分に支障をきたしたり、共有関係の解消をめぐって新たな紛争が生じたりするなどの弊害がありました。 

 

共有物の管理については共有持分割合の過半数をもって決定する必要があり(民法第252条)、また共有物の処分については共有者全員の同意が必要とされています(民法第251条)。 

そのため、共有関係が生じてしまうと、共有物の管理・処分を機動的に行いにくくなるというデメリットが生じるのです。 

 

遺留分侵害額請求権では、金銭請求に一本化することによって、複雑な共有関係が生じることがなくなり、より使い勝手の良い制度になりました。 

 

3)遺留分侵害額請求権の課税関係|金銭精算の場合・現物返還の場合 

遺留分侵害額に相当する金銭を支払った側は、課税庁に対して更正の請求をすることにより、遺留分に対応する部分について、すでに支払った相続税の還付を受けることができます。 

 

他方、遺留分侵害額請求によって金銭を取得した側は、相続税の期限後申告書を提出して、遺留分に対応する部分について相続税を納めることになります。 

 

また、金銭の支払いに代えて、不動産など資産の全部または一部を侵害額請求者に移転させた場合には、譲渡所得税等がかかりうる点に注意が必要です。 

 

4、遺留分侵害額請求の方法 

実際に遺留分侵害額請求を行うために、どのような方法を採ることができるかについて解説します。 

 

1)相続人間で話し合う 

相続は親族間の問題ですので、円満な解決を目指すためには、まずは話し合うことから始めましょう。 

ほかの相続人と遺留分についての交渉を行う際には、弁護士に相談をして、客観的な視点から議論の交通整理をしてもらうことをおすすめします。 

 

2)内容証明郵便を送付する 

話し合いがまとまらない場合、訴訟を提起することが考えられます。もっとも、遺留分に関する事件は「家庭に関する事件」とされており(家事事件手続法244条1項)、訴訟を提起する前に、まずは家庭裁判所に家事調停(遺留分侵害額の請求調停)を申し立てなければなりません(家事事件手続法257条1項)。 

 

そのため、遺留分侵害額請求権の消滅時効が迫っている場合等には、消滅時効の完成を猶予するため、話し合いの途中であっても、いったん内容証明郵便を送付しておくことが必要になります。 

内容証明郵便を送付すれば、消滅時効の完成が6か月間猶予されますので(民法第150条第1項)、その間に調停や訴訟などの準備を進めることができます。 

 

3)遺留分侵害額の請求調停 

遺留分に関する話し合いがまとまらない場合は、裁判所に対して遺留分侵害額の請求調停を申し立てましょう。 

調停では、調停委員が、当事者双方の主張を個別に聞きながら当事者間での交渉を仲介してくれます。 

 

そのため、相続人同士が直接話し合いを行う場合よりも、両当事者が歩み寄りやすくなることが期待されます。 

当事者が互いに調停案に合意できれば、調停成立となります。 

 

4)遺留分侵害額請求訴訟 

調停を行っても話し合いがまとまらない場合には、遺留分侵害額請求訴訟を提起するほかありません。 

訴訟では、遺留分侵害の事実を証拠により立証する必要があります。 

 

どのような証拠を収集する必要があるか、どのように訴訟の準備を進めれば良いかなどについては、弁護士に相談することをおすすめします。