会社であれば、取引先と商品の売買について商品売買契約を結んだり、オフィスを借りるときに賃貸借契約を結んだり、コンサルタントに依頼するときに業務委託契約等を結んだりしています。個人でも、車を購入するときの売買契約、会社に入るときの雇用契約、アパ―トを借りるときの賃貸借契約等実に様々な契約を結んでいます。お互い契約を結ぶ時には、信頼関係があり、トラブルが起こること等ありえないと思って、契約書にサインするのですが、トラブルが起こったときに問題になるのは、契約書の何と書いてあるか、だけです。ですから、これを慎重にレビューしておくことが大事です。

また、会社には、定款、就業規則、組織規程、給与規定等々多数の規定規則類がありますが、これも会社の運営の仕方、会社と従業員との関係等を定めたものですので、非常に重要なものです。普段は、内容等見たこともないという方が多いのではないかと思いますが、日頃から規定規則類を見直し、これに従った会社運営を行っていくことが大切です。

①契約書・定款・就業規則等その1:契約書の重要性
②契約書・定款・就業規則等その2:契約書作成・レビュー
③契約書・定款・就業規則等その3:契約書の解釈
④契約書・定款・就業規則等その4:定款の作成とレビュー
⑤契約書・定款・就業規則等その5:就業規則
⑥契約書・定款・就業規則等その6:社内規程整備

①契約書・定款・就業規則等その1:契約書の重要性

日本の会社の多くは、契約書の内容を慎重に検討せずに、まあ大丈夫だろうということで、相手から提示される契約書に簡単にサインしてしまうという傾向があります。しかし、これは、極めてリスクの高いことなのです。

後で相手方との間にもめ事が起こった時のより所は、契約書しかありません。契約書に「○○の件については、甲の責任を免除する。」と書いてあれば、その責任は免除されます。相手方が契約前に「こうは書いてあるけど、いざという時は責任を持って対応します。」と言っていたとしても、口頭の発言を後で証明する手立てはなく、泣き寝入りせざるを得ません。契約書が最終的な合意であり、その前の口頭のやり取りは契約ではないということを肝に銘じておく必要があります。

ですから、契約書の内容は隅から隅まで読み込み、疑問があったら、相手方に確認をし、その答えが自分の考え、相手が口頭で説明していたことと違っていたなら、文言の修正を願い出ることです。

法律の専門家でない方がしっかりと契約書を読み込み、法的問題点を明らかにすることは困難かも知れません(簡単な売買契約とか、秘密保持契約等のよくある契約書を除く)が、それでも最善の努力が必要です。もし自分でやるのは不安、契約内容が複雑でよくわからないという方がいらっしゃいましたら、弁護士にご相談ください。

②契約書・定款・就業規則等その2:契約書作成・レビュー

契約書をレビューするに当たって、まず押さえておくべきことは、誰が作った契約書なのかということです。相手が作ったものであれば、相手に有利にできています。相手が作った契約書を提示された時は、「このまま契約すると、自分は損するな」と考えて、慎重に取り掛からなければなりません。

まず見るべきポイントは、契約の内容です。売買契約であれば、何を売買するのか、業務委託契約であれば、どういう仕事を相手方に依頼するのかです。次に、対価の支払条件です。総額でいくら支払うことになるのか、それを分割して払うとすれば、何時までにいくら支払わなければならないのか。消費税は込か。経費は別途請求されるのか等です。このほかに、売買契約であれば所有権移転の時期、危険負担移転の時期、契約不適合責任の範囲、債務不履行の場合の損害賠償の範囲、裁判管轄の場所等を見ていかなければなりません。

他に、契約書をめぐってよくある相談は、証券会社から仕組み債という株式オプションを組み込まれた債権(例えば、ある株式の価格が2分の1にならなければ、当初1か月間20%の金利を支払うというもの)を買ってしまったというケースです。証券会社の営業マンから、「これは必ず大丈夫です」、「この株式が2分の1になることはありません」などという説明を聞いて、購入することに決めたが、たったその株式の価格が半分以下になってしまったというものです。とにかく契約書のサインする前に書かれている内容を読みあげ、納得した場合にだけサインするという習慣を身に着けておかないといけません。

③契約書・定款・就業規則等その3:契約書の解釈

お互い内容が明確になったと思って契約を締結しても、後で契約書の文言の解釈で争いになることがあります。言葉の使い方が甘かったために、当事者間で文言の解釈に齟齬が生じるのです。当事者間で争いがある場合、最終的には裁判所の判断にゆだねるしかありませんが、訴訟を起こす前に裁判での勝算を弁護士に聞いてみるとよいと思います。

例えば、建物を甲から乙に4月1日に譲渡するときの契約の中に「4月1日以降の収益と費用は乙に帰属する」と書かれていた場合です。乙は4月分の家賃はいつ振り込まれようと、当然に自分の収益になる、4月分の費用もいつ支払うことになっても自分の負担であると考えます。ところが、甲は、4月分の家賃は3月31日に振り込まれているから自分の収益であるが、4月の費用は4月1日以降の費用であるから乙の負担であると解釈します。こうして、甲と乙の間に4月分の家賃の帰属をめぐって紛争が生じます。

本来契約の前に家賃の振込時期が前月末であることが明らかになっていれば、「4月分の家賃(3月末に振り込まれるものを含む)」と括弧書きをつけておけば、お互いの会社に齟齬が生じることはなかったのです。契約書の作成時点で、契約書に使われている言葉の解釈で争いが起きないように、できるだけ正確に言葉一つ一つを定義していくことが必要です。

後で紛争になった場合に裁判所がどう判断するかですが、おそらく4月分の家賃も乙に帰属するとされるでしょう。なぜなら、家賃収益と費用の帰属は同一であると考えるからです。

④契約書・定款・就業規則等その4:定款の作成とレビュー

会社を設立するときに、まず最初に作成するのが定款です。これに公証人の認証を受け、資本金を払い込んで、設立登記をすることで会社が誕生します。定款とは、会社の憲法のようなもので、本店所在地、株式の種類、株式譲渡制限、株主総会の決議、取締役会における決議事項等の重要事項について定めています。しかしながら、会社の社長は、会社を設立した時は一度読むかも知れませんが、二度と定款を読みません。

その結果、定款違反の行為が野放しになっているケースがあります。

例えば、株式譲渡制限の規定ですが、ほぼすべての中小企業の定款には、この規定があります。ところが、会社によって許可を出す機関が、株主総会であったり、取締役会であったり、代表取締役であったりします。ですから、株式を譲渡する時には、正しい機関の譲渡承認を得ておかなければなりません。

この他にも、株券発行会社であるのに、株券を発行していない会社もよく見かけられます。今の会社法では、株券の不発行が原則となっていますが、未だに定款の変更が行われていない会社が多いのです。

さらに、中小企業の中には、取締役会設置会社となっているにもかかわらず、ワンマン社長が取締役会も開かず、勝手に経営判断を行っているところも多々あります。今の会社法なら、この実態にあった取締役1名の会社も認められていますので、定款を変更してしまえば、実態と定款の内容が整合してくるのです。

こうした問題がありますので、弁護士に頼んで定款をレビューし、法改正に合わせた修正を行っていくことが必要です。

⑤契約書・定款・就業規則等その5:就業規則

就業規則は、会社と労働者の関係を定めたもので、定款に次いで重要な社内規則類の一つです。勤務時間、残業、配転、休職、退職、賞罰、解雇等の規程が設けられています。条数も多く、かなり細かいところまで定められています。例えば、法定労働時間を超えて従業員を労働させるときには、36協定という労使協定を結んで、労働基準監督署長に届け出なければならず、割増賃金も法律の規定に従ったものを支払わなければならないというものです。賞罰や解雇については、懲戒事由、解雇事由等が規定されており、この規定を厳格に守っていかなければなりません。

その一方で、労働法分野でも近時多数の改正が行われています。働き方改革関連法で正規と非正規の賃金格差の是正を図った同一労働同一賃金が取り入れられ、高年齢者効用安定法では、65歳までの雇用継続義務化がなされた他、2021年には70歳までの継続雇用が努力義務として規定されました。

このように労働法分野では、毎年のように続々と改正や新法の制定が行われており、これに併せて、就業規則を見直していくことが必要となっています。社会保険労務士や弁護士に相談し、適宜改正を行っていくことが望まれます。

⑥契約書・定款・就業規則等その6:社内規程整備

会社には、定款や就業規則の他にも、組織規程、取締役会規則、給与規程、賞罰規程、出張旅費規程、個人情報管理規程等々多数の社内規程があります。設立時や制定時に用意された社内規程がそのまま改訂されずに残っている場合が多く、最近の法律改正に合わせた修正が行われていないのが現状です。2022年の法律改正だけでも、民法改正、個人情報保護法改正、育児・介護休業法改正、パワハラ防止法改正等、ビジネス取引、人事労務に関連する改正が行われています。特に個人情報保護法については、顧客情報を大量に扱う会社では、慎重な対応が必要です。一度社内規程を全面的に見直し、適切な改訂を行っていくことをお勧めします。