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企業統治・ガバナンス・コンプライアンス(Ⅱ)-コンプライアンスとは
目次
1 コンプライアンスの意味
コンプライアンスとは、法令遵守のことを言います。これを狭く解釈すれば、ただ単に法令を守れば良いということになってしまいますが、今の世の中で企業に求められているコンプライアンスとは、より広い意味で、倫理観、公序良俗などの社会的な規範に従い、公正・公平に業務をおこなうことを意味していると思います。そのため、企業が守るべき対象は、次のように広くなります。
(1)法令
法令とは、憲法、法律、行政機関で制定される政令、府令、省令、地方公共団体の条例、規則を含みます。
民事上の問題であれば、権利を侵害された者から損害賠償請求を受けることになります。パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントはこれにあたります。
行政上の問題であれば、業務停止命令を受けたり、業務を行うために受けている許認可を取り消されることになります。独禁法違反で企業が公正取引委員間に課徴金を科されたり、投資顧問会社が顧客に対して不適切な勧誘をしたことで、登録を取り消されたりするのが、その一例です。
刑事上の問題であれば、法令に定められている所定の処罰を受けることになります。昨今SNSを使って投資を勧誘することが頻繁に行われていますが、金をだまし取る目的でやっているのであれば、刑法上の詐欺罪に該当することになるので、逮捕勾留され、その後裁判所で罰金、懲役等を受けることになります。
(2)企業規則
企業規則とは、企業が内部で定める社内ルールやマニュアルのことを言います。社員が企業内で働くにあたって守らなければならない規則や取り決めのことです。
そのうち最も重要なものは就業規則です。常時10名以上の従業員を雇っている雇用主は労働基準法に基づいた就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長に届け出ることが必要とされています。勤務時間、残業代、有給休暇、休職、懲戒、退職等、従業員の処遇に関わる重要な規則が定められていますが、多くの規定は、労働基準法に従って定められていますので、法令に近いものと言えます。
企業規則は就業規則だけではなく、定款、組織規程、取締役会規程等多くのものがありますので、経営者も従業員もこれに従わないといけません。
(3)企業倫理・社会規範
社会が企業に求める倫理観や行動規範。消費者や取引先からの信頼を獲得するためには必須となります。これには、いろいろな場合があります。
自社の利益の追求に走った結果としての顧客の利益を軽視した営業姿勢は、ビッグモーター問題に見られるように社会からの強い批判の対象となります。
社員が過労死によって自殺してしまった電通事件も、企業姿勢が強く批判されることになりました。
2 コンプライアンスと内部統制との違い
コンプライアンスに近い言葉として内部統制があります。
上場企業や大会社である取締役会設置会社については、内部統制の整備が法律上の義務となっています。
内部統制とは、企業を適正かつ健全に運営するための会社内部の規則や仕組みのことであり、次の4つを目的としています。
- 業務の有効性及び効率性
- 財務報告の信頼性
- 事業活動に関わる法令等の遵守
- 資産の保全
3つ目がコンプライアンスにあたり、コンプライアンスは内部統制の整備による目的の1つとして位置づけられています。つまり、内部統制は、コンプライアンスより広い概念で、他に業務の有効性と効率性を図ること、財務報告の信頼性を保つこと、資産の保全を図ることが含まれているのです。
3.コーポレートガバナンスとの違い
内部統制に近い概念として、コーポレートガバナンスがあります。
そして、コーポレートガバナンスは、一般に、企業を健全に運営するための体制である点は内部統制と変わりはないとされています。
そして、内部統制の目的の一つであるコンプライアンスを確保するには、コーポレートガバナンスも重要な要素の一つであり、コーポレートガバナンスは、株主や取締役会などが会社の経営者を監視する仕組みであるのに対し、内部統制は経営者が会社の従業員を管理する仕組みとなっている点で異なると説明されています。
しかし、このように解すると、コーポレートガバナンス、内部統制、コンプライアンスが、あたかも同じ概念のようになってしまい、混乱してしまいます。これが、新聞雑誌等で、企業不祥事が起こると、すべてコーポレートガバナンスの問題だと指摘され、どこをどう直せば問題が是正されるかがわからなくなってしまう原因の一つではないかと思っています。
ですので、コーポレートガバナンスを狭義に定義し、企業は株主が所有者であるという考え方のもと、株主が経営者を監視し、経営者の不正や暴走、会社の私物化などを防いで企業価値の最大化に集中させるための仕組みや制度を意味するとした方が適切ではないかと私は考えています。
このように考えれば、コーポレートガバナンスを強化するための方法は、会社法で規定された株主総会、株主代表訴訟、監査制度を有効に機能させるために、社外取締役や社外監査役の任命、取締役と執行役の分離、指名委員会や報酬委員会の設置、内部通報制度の整備、役員や従業員の行動準則や行動規範の策定などを行うことで図っていくべきであるということになります。
監修者
植田 統
1981年、東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。
ダートマス大学MBAコース留学後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルティングを担当。
野村アセットマネジメントで資産運用業務を経験し、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。
レクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長を務め、経営計画立案・実行、人材マネジメント、取引先開拓を行う。
アリックスパートナーズでライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当。
2010年弁護士登録後、南青山M's法律会計事務所に参画。2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を講義。数社の社外取締役、監査役も務める。