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病院経営において、医療過誤リスクや患者対応、未払い医療費、職員の労務管理といった法的課題は避けて通れないものです。
顧問弁護士は、トラブルが発生してからの対処だけでなく、日々の運営を法的にサポートし、リスクを未然に防ぐ重要なパートナーとなります。
本記事では、病院が顧問弁護士を必要とする具体的な理由や役割、選び方のポイント、そして費用の目安について体系的に解説します。
安定した病院経営を実現するための判断材料として、ぜひお役立てください。
目次
病院が顧問弁護士を必要とする理由
病院は人の命や健康を預かるという特性上、一般的な企業よりも高度で複雑な法的リスクに直面します。
医療過誤の疑念、患者や家族からのクレーム、慢性的な未払い医療費、医師や看護師の過重労働問題など、経営を揺るがしかねない火種は日常の中に潜んでいます。
顧問弁護士を導入することで、これらのリスクを早期に発見し、法的な裏付けを持って対処することが可能になります。
ここでは、顧問弁護士が病院経営をどのように支えるのか、その具体的なメリットを解説します。
法的トラブルを未然に防ぐ方法
病院運営における法的トラブルを未然に防ぐためには、法令遵守(コンプライアンス)体制の構築が不可欠です。
医療法・個人情報保護法・労働関連法規は、社会状況に応じて改正や運用の見直しが行われることがあります。
現場判断だけで運用すると最新要件の見落としが起こり得るため、定期的な確認体制が重要です。
顧問弁護士がいれば、契約書・就業規則・院内規程等の法令適合性やリスク条項の指摘、修正案の提示を受けられます。
病院側は助言を踏まえて条文修正や運用改善を行います。
これにより、不利な契約や違法な労務管理を回避し、経営の安全性を高めることができます。
また、ヒヤリハット事例や軽微なクレームが発生した段階で早期に相談することで、将来的な紛争の芽を摘むことも可能です。
医療過誤やクレーム対応の重要性
医療過誤が疑われる事案や、患者からの深刻なクレーム対応は、病院の社会的信用を左右する重大な局面です。
初動対応を誤り、不適切な説明や誠意を欠く態度と受け取られれば、損害賠償請求や刑事告発に発展する恐れがあるだけでなく、SNSや報道を通じて悪評が拡散するリスクもあります。
顧問弁護士が関与することで、事実関係に基づいた冷静な法的判断が可能となり、カルテの保全や説明文書の作成、患者側との交渉窓口の一本化などを適切に進められます。
また、現場職員が疲弊しないよう、対応マニュアルの整備や法的なバックアップ体制を整えることも、顧問弁護士の重要な役割です。
労務問題や内部通報制度の整備
医師の働き方改革への対応や、ハラスメント防止対策など、病院における労務管理は年々複雑化しています。
長時間労働による健康被害や、パワーハラスメントなどの問題が発生すれば、多額の賠償金支払いだけでなく、人材流出や採用難にもつながりかねません。
顧問弁護士のサポートを得て、実態に即した就業規則や36協定の整備を行うことで、労務リスクを低減できます。
また、公益通報者保護法に対応した内部通報窓口を設置し、弁護士が外部窓口となることで、院内の不正や問題を早期に把握し、自浄作用を働かせる仕組みを作ることも可能です。
病院顧問弁護士の具体的な役割
病院の顧問弁護士は、単なる法律相談の相手ではなく、病院経営の質を向上させるための戦略的なパートナーです。
日々の診療契約や個人情報の取り扱い、職員の労務管理など、運営のあらゆる場面で法的視点からのアドバイスを提供します。
これにより、現場の負担を軽減しつつ、質の高い医療サービスを提供するための環境整備が進みます。
ここでは、未払い医療費の回収やペイシェントハラスメント対策など、実務面での具体的な役割について深掘りします。
未払い医療費の効率的な回収
未払い医療費の回収は、病院の健全な経営にとって避けて通れない課題です。
しかし、現場スタッフが督促業務に追われることは、本来の医療業務への支障となりかねません。
顧問弁護士と連携することで、督促プロセスの標準化と効率化が図れます。
内容証明郵便の送付や支払督促の申立てといった法的手段を、回収の見込みや費用対効果を考慮しながら適切に選択・実行できます。
また、弁護士名での督促は患者に対する心理的なプレッシャーとなり、支払いを促す効果も期待できるでしょう。
悪質な滞納者に対しては毅然とした法的措置を取りつつ、経済的に困難な患者には分割払いの交渉を行うなど、状況に応じた柔軟な対応が可能になります。
ペイシェントハラスメントへの対応策
患者や家族による暴言、暴力、不当な要求などのペイシェントハラスメントは、職員の安全と精神的健康を脅かす深刻な問題です。
ペイシェントハラスメント対策では、院内の方針・対応フローを整備したうえで、必要に応じて顧問弁護士と連携できる体制を用意すると効果的です。
具体的には、院内掲示で禁止行為を明示し、発生時の対応手順をマニュアル化します。
事案発生時は、対応メモやカルテ記載等の記録を整理し、録音・映像等を含む場合は院内ルールと個人情報保護法等に沿って適切に管理したうえで、必要最小限の範囲で弁護士へ共有します。
弁護士は、注意文書の送付や面談同席、警察相談等に加え、施設管理権による利用制限等は、医師法第19条の趣旨(正当な事由の有無)や患者の緊急性等を踏まえて個別に検討します。
従業員の労務問題の解決
病院は多職種が連携する職場であり、職種間の人間関係や労働条件の違いから労務トラブルが発生しやすい環境です。
未払い残業代請求や不当解雇の主張、ハラスメント被害の訴えなどに対し、法的な根拠に基づいた対応を行わなければ、労働審判や訴訟で不利な立場に追い込まれる可能性があります。
顧問弁護士は、トラブル発生時の事実調査や法的評価を行い、解決に向けた具体的な道筋を示します。
また、問題社員への指導・懲戒処分の進め方についても、手続の適正さを確保するための助言を行い、紛争のリスクを最小限に抑えます。
法律に基づく人事異動の相談
組織運営上必要な人事異動であっても、対象となる職員にとっては生活やキャリアに大きな影響を及ぼすため、慎重な進め方が求められます。
法的に義務付けられているわけではありませんが、紛争予防や論点整理の観点から、顧問弁護士へ事前に相談しておくと安心です。
特に降格や配置転換は、労働者に不利益が生じるおそれがあるため注意が必要です。
これらは就業規則の不利益変更とは区別されるものの、業務上の必要性や手続の相当性、合理的な理由の有無などが争点になりやすい傾向があります。
弁護士は、就業規則の規定内容や過去の裁判例、本人の同意の有無などを踏まえ、人事権の行使が権利濫用に当たらないかを客観的に判断します。
適切なプロセスを経ることで、職員の納得感を高め、トラブルのない人事施策の実行につなげることができます。
病院顧問弁護士の選び方とポイント
病院の顧問弁護士には、一般的な企業法務とは異なる専門知識と経験が求められます。
医療現場の実情を理解していない弁護士では、適切なリスク評価や現場に即したアドバイスが難しい場合があるからです。
また、緊急時の対応力やコミュニケーションの円滑さも重要な選定基準となります。
ここでは、数ある法律事務所の中から、自院に最適な顧問弁護士を選ぶために押さえておくべきポイントを解説します。
医療業界経験のある弁護士を選ぶ
医療法務は非常に専門性が高い分野であるため、医療業界での実務経験や実績が豊富な弁護士を選ぶことが最も重要です。
医療事故対応の経験はもちろん、医療法や療養担当規則、個人情報保護法などの関連法令に精通しているかを確認しましょう。
医療機関の顧問実績があれば、病院組織特有の力学や現場の空気感を理解しており、より実践的なアドバイスが期待できます。
ホームページでの実績紹介や、医療関連のセミナー講師歴、執筆活動などを参考に、専門性を判断するとよいでしょう。
緊急対応が可能な弁護士の探し方
医療現場では、夜間や休日に重大なインシデントやトラブルが発生することも珍しくありません。
そのため、緊急時に連絡が取れ、迅速に動ける体制を持っている弁護士かどうかが鍵となります。
顧問契約を結ぶ前に、緊急時の連絡手段や対応可能な時間帯、不在時のバックアップ体制について具体的に確認しておきましょう。
また、物理的な距離が近い、あるいはオンライン会議システムなどを活用してすぐに打ち合わせができる環境があることも、迅速な対応には不可欠な要素です。
料金体系とサービス内容の確認
顧問料の金額だけでなく、その対価としてどのようなサービスが提供されるのかを明確にしておくことが大切です。
月額顧問料に含まれる相談時間の上限、契約書チェックの通数、面談の頻度、簡易な書面作成の可否などを確認しましょう。
特に、医療事故対応や訴訟、立ち入り検査への同席などが別料金となるのか、その場合の費用体系はどうなっているのかを事前に把握しておくことで、予算オーバーや認識の齟齬を防げます。
見積書や契約書の内容を細部まで確認し、納得した上で契約を結ぶようにしてください。
病院顧問弁護士にかかる費用の目安
顧問弁護士の費用は、病院の規模や依頼する業務の範囲によって大きく異なります。
定額の顧問料でどこまでカバーされるのか、どのような場合に追加費用が発生するのかを理解しておくことは、適切な予算管理のために不可欠です。
安さだけで選ぶのではなく、必要なサービスが網羅されているか、費用対効果は見合っているかという視点で検討しましょう。
ここでは、一般的な費用の相場と内訳について解説します。
顧問料の相場とその内訳
病院の顧問料について、公的に定められた統一相場はありません。
顧問契約の内容は、想定される相談時間や契約書レビューの本数、緊急対応の有無、出張対応の要否など、業務範囲に応じて個別に決まります。
参考として、日本弁護士連合会が実施したアンケート(中小企業向けの想定事例)では、月3時間程度の法律相談を顧問契約の範囲内とする場合、月額5万円の設定が中心とされています。
もっとも、具体的な契約条件によって顧問料は増減します。
大規模病院や、相談件数が多い診療科を抱える病院では、月額10万円以上の顧問料となるケースも珍しくありません。
一般的な顧問料には、日常的な法律相談(電話・メール・面談)や、簡易な契約書などのリーガルチェックが含まれます。
なお、定額制に限らず、タイムチャージ制(時間制報酬)を採用している法律事務所もあります。
自院における相談頻度や業務内容を踏まえ、最適な契約形態を選択することが重要です。
追加料金が発生するケース
顧問契約の範囲を超える業務については、別途費用が発生するのが一般的です。
具体的には、医療訴訟や労働審判などの紛争案件への対応(着手金・報酬金)、複雑な契約書の作成、第三者委員会への参加、院内研修の講師派遣、遠方への出張などが挙げられます。
これらの費用は、事案の難易度や経済的利益、拘束時間などに基づいて算出されます。
トラブルが発生してから慌てないよう、追加費用が発生する条件や目安についても、契約時に確認しておくことをお勧めします。
病院顧問弁護士に関するよくある質問
病院が顧問弁護士を検討する際は、費用や契約形態、対応範囲など多くの疑問が生じやすいものです。
医療過誤やクレーム対応、未払い医療費、労務問題がどこまで顧問料に含まれるのかは、特に確認しておきたい点です。
また、顧問契約とスポット契約の違いや導入のタイミングによって、得られる支援内容も大きく変わります。
以下では、契約前によく寄せられる質問を整理し、判断の目安となるポイントを解説します。
顧問契約とスポット契約の違いは?
顧問契約は、継続的な関係を前提として月額料金を支払い、日常的な相談や予防法務を行う契約形態です。
病院の内情を深く理解した弁護士から、迅速かつ的確なアドバイスを受けられます。
一方、スポット契約は、具体的なトラブルが発生したその都度、案件ごとに弁護士に依頼する形態です。
初期費用を抑えられる反面、弁護士探しに時間がかかったり、一から事情を説明する必要があったりするため、初動が遅れるリスクがあります。
リスク管理を重視する病院経営においては、顧問契約の方が長期的なメリットが大きいと言えます。
顧問弁護士を選ぶ際の注意点
「弁護士であれば誰でも同じ対応ができる」とは限りません。
特に医療法務は高度な専門性が求められる分野であり、一般民事や企業法務のみを主に扱っている弁護士では、十分な対応が困難となる場合があります。
弁護士を選定する際は、医療機関側の代理人としての実務経験があるか、医療安全管理指針をはじめとする各種ガイドラインに精通しているかを確認することが重要です。
また、形式的・事務的な対応にとどまらず、経営者や現場スタッフの立場を理解したうえで、課題解決に向けて伴走できる姿勢があるかどうかも、重要な判断要素となります。
複数の弁護士と面談を行い、長期的に信頼関係を構築できるパートナーを慎重に見極めることが望ましいでしょう。
まとめ:病院の顧問弁護士導入の意義
病院に顧問弁護士を導入することは、単なるトラブル対応ではなく、経営の安定とリスク管理を支える重要な施策です。
医療過誤やクレーム、未払い医療費、労務問題、ハラスメントなど、医療現場には多様な法的課題が存在します。
顧問弁護士と継続的に連携することで、問題を未然に防ぎ、発生時も迅速かつ一貫した対応が可能になります。
自院の規模や課題に合った顧問弁護士を選び、長期的な視点で法務体制を整えることが、病院経営の信頼性と持続性を高める鍵となるでしょう。
青山東京法律事務所の紹介
青山東京法律事務所は、ビジネス経験豊富な弁護士を多数抱えています。
医療機関に対する顧問弁護士としての経験も有しており、的確かつスピーディーなサービスを提供することが可能です。
顧問弁護士をお探しの方は、是非当事務所へお問い合わせください。
監修者
植田 統 弁護士(第一東京弁護士会)
東京大学法学部卒業、ダートマス大学MBA、成蹊大学法務博士
東京銀行(現三菱UFJ銀行)で融資業務を担当。米国の経営コンサルティング会社のブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルタント。
野村アセットマネジメントでは総合企画室にて、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。その後、レクシスネクシス・ジャパン株式会社の日本支社長。
米国の事業再生コンサルティング会社であるアリックスパートナーズでは、ライブドア、JAL等の再生案件を担当。
2010年弁護士登録。南青山M's法律会計事務所を経て、2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論の講義を行う他、Jトラスト株式会社(東証スタンダード市場)等数社の監査役も務める。





