公開日:  更新日:

労務問題は、企業経営に大きな影響を及ぼす恐れがあるトラブルです。
対応を誤ると、法的責任を負ったり、社会的信用を損なったりする場合があります。
問題が発生する前に全体像を把握しておくことが重要といえます。

本記事では、労務問題の概要、具体例、対応の流れ、予防策などをまとめています。
事前に備えたい方は参考にしてください。

労務問題とは

労務問題とは、以下のような場面で生じるトラブルを指します。

【内容】

  • 会社と従業員の間で起こった問題
  • 従業員と従業員の間で起こった問題

前者の例として残業代の不払いや不当な雇い止め、後者の例としてパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントが挙げられます。

労務問題は、多くの企業で発生しやすい問題です。
厚生労働省が発表している資料によると、令和6年度に総合相談コーナーに寄せられた労働相談は120万1,881件です。
内訳は次のようになっています。

内容 件数
法制度の問い合わせ 81万4,454件
労働基準法等の違反の疑いがあるもの 20万7,619件
民事上の個別労働関係紛争相談 26万7,755件

民事上の個別労働関係紛争相談で最も多い内容は「いじめ・嫌がらせ(5万4,987件)」です。
従業員間では、人間関係のトラブルが起こりやすいと考えられます。

労務問題が発生した場合は、原則として社内の担当者が対応します。
ただし、担当者のみで対応が完結しない場合もあります。
トラブルの内容によっては、裁判に発展することもあります。
自社だけで対応が難しい場合は、弁護士などの専門家にサポートを求めることが一般的です。

出典:厚生労働省「『令和6年度個別労働紛争解決制度の施行状況』を公表します」

労働問題との違い

労務問題とよく似た問題として、労働問題が挙げられます。
労働問題は以下の2つで構成されます。

【内容】

  • 会社と従業員の間で起こった問題
  • 従業員と従業員の間で起こった問題

以上を見てわかる通り、問題の内容は労務問題と同じです。
両者の違いは「どの立場から問題にかかわるか」といえるでしょう。
会社の立場で問題に関わると労務問題、従業員の立場で問題に関わると労働問題になります。
参考に、具体例を紹介します。

問題の内容 会社側 従業員側
残業代の不払い 労務問題 労働問題
パワーハラスメント 労務問題 労働問題
雇い止め 労務問題 労働問題

求職者と会社、退職者と会社の間で起きた問題も含むため、労務問題を労働問題より広い概念と捉える見方もあります。
ただし、現在のところ労務問題と労働問題に明確な線引きはありません。
文脈によっては、同じ意味で用いられていることもあります。

労務問題の分類と具体例

労務問題は、幅広い領域で起こり得ます。
分類すると、以下のような問題が含まれます。

【分類】

  • 労働時間や休暇に関する問題
  • 休職に関する問題
  • 人間関係に関する問題
  • 賃金に関する問題
  • 採用・入社に関する問題
  • 解雇に関する問題

ここでは、各問題の概要と具体例を紹介します。

労働時間や休暇に関する問題

従業員の労働時間や休暇取得に関するトラブルです。
基本的には、会社と従業員間で起こります。
具体例は以下の通りです。

【具体例】

  • 毎週1日の休日もしくは4週4日以上の休日を与えていない
  • 月45時間以上の時間外労働が常態化している
  • 会社の慣習を理由に正当な理由もなく有休取得を認めない

労働時間や休暇に関する問題は、従業員の健康やモチベーションに悪影響を与えます。
また、法令違反で会社側が処罰される恐れもあります。
たとえば、労働基準法で休日について以下のように定められています。

使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。
② 前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。

引用:e-GOV法令検索「労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)」

違反すると、6カ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金に処されます。

休職に関する問題

会社と従業員の間で、休職に関する問題が起こることもあります。
休職は、社内規定に従い特定の事情に該当する従業員の労働義務を免除し職務から離れさせる措置です。
主な事情として、心身の傷病、業務外の傷病、他社への出向などが挙げられます。
トラブルの具体例は次の通りです。

【具体例】

  • 従業員が希望しても会社が休職を認めない
  • 休職の命令に従業員が従わない
  • 特定の従業員が休職と復職を何度も繰り返す

休職制度は、会社が任意で定める制度です。
育児休業や介護休業のように、法律で定められた休暇(法定休暇)ではありません。
したがって、会社と従業員の認識に齟齬が生じやすい傾向があります。
ルールを明確化して、従業員に周知しておくことが大切です。

人間関係に関する問題

従業員間の人間関係に関するトラブルも会社で起こりやすい労務問題です。
具体例として、以下のものが挙げられます。

【具体例】

  • いじりと称して他の従業員から嫌がらせをされる
  • 上司が人格を否定する言動を繰り返す
  • 本人の意に反して同僚が体に触れる

以上のほか、育児休業や介護休業などの利用に関するハラスメントも散見されます。
人間関係に関する問題は、加害者と被害者で認識が異なることもあります。
ハラスメントの定義に基づき、適切に対処することが重要です。
また、必要な対策を怠ると、安全配慮義務違反や職場環境配慮義務違反に問われる恐れもあります。

賃金に関する問題

会社と従業員の間で賃金に関する問題が起こることもあります。
具体例は次の通りです。

【具体例】

  • 従業員の同意を得ず賃金を引き下げた
  • 長期間にわたり残業代を支払っていない
  • 賃金の一部が支払われていない

従業員の生活に深く関わるため、重大な問題に発展するケースが少なくありません。
問題の内容を正確に理解して、適切に対処することが重要です。
たとえば、労働契約法で「労働契約の内容の変更」について以下のように定められています。

労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

引用:e-GOV法令検索「労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)」

業績が悪化した場合も、労働者の同意なく会社側の都合で賃金を一方的に減額することはできません。

採用・入社に関する問題

労務問題は範囲が広いため、採用や入社に関する問題も起こり得ます。
具体例は以下の通りです。

【具体例】

  • 雇用条件通知書の内容と実際の労働条件が異なる
  • 正当な理由なく会社から内定を一方的に取り消された
  • 選考過程でハラスメントを受けた

会社が事前に明示した労働条件と実際の労働条件が異なる場合、従業員は労働契約を解除できます。
労働基準法に以下の定めがあるためです。

前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。

引用:e-GOV法令検索「労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)」

解雇に関する問題

会社と従業員あるいは元従業員間で解雇に関する問題も起こり得ます。
具体例は以下の通りです。

【具体例】

  • 合理的な理由がないにもかかわらず解雇された
  • 会社から自主退職を強要された
  • 元従業員から不当な雇い止めを指摘された

解雇も従業員の生活に直結するため、重大な問題に発展しがちです。
ルールを確認してから対処するべきといえるでしょう。
たとえば、労働契約法で解雇について次のように定められています。

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

引用:e-GOV法令検索「労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)」

会社の都合で従業員を一方的に解雇することはできません。
不当解雇を理由として損害賠償請求される恐れがあるため注意が必要です。

労務問題を起こさないためにできること

続いて、労務問題を防ぐために意識したいポイントを解説します。

雇用契約書や就業規則の整備

社内のルールが明確でない場合、会社と従業員の認識にずれが生じ、労務問題につながることがあります。
会社や従業員の認識に齟齬が生じやすいためです。
ここでいう代表的なルールとして、雇用契約書と就業規則が挙げられます。
雇用契約書は、会社と従業員間で労働条件について合意したことを示す書類です。
就業規則は、次のように定義されています。

労働者の賃金や労働時間などの労働条件に関すること、職場内の規律などについて定めた職場における規則集です。

引用:(pdf)厚生労働省「就業規則を作成しましょう」

就業規則は関係する法令、雇用契約書は就業規則に従い作成します。
関係する法令に違反するルールは無効になります。
労務問題を防ぐため、作成した就業規則や雇用契約書の内容を従業員に周知しておくことも大切です。

労災を防止する福利厚生制度の設計

関係法令に従い、労災の防止体制を整備すると労務問題は起こりにくくなります。
従業員の危険や健康障害を防止する措置を講じたり、従業員の安全や衛生に関わる教育を実施したりするためです。
法令に違反すると、労災事故が起こっていなくても労働安全衛生法などに基づき刑事責任を問われる恐れがあります。
また、労災の被災者から損害賠償請求されることも考えられるでしょう。
万が一に備えて、適切な体制を構築しておくことが重要です。

労災に備えて福利厚生制度を準備しておくことも欠かせません。
関わりが深い制度として労災保険が挙げられます。
労災事故が発生したときに加入していると、保険給付が行われるため、会社は労働基準法にもとづく補償責任が免責されます。
正規雇用、非正規雇用を問わず、従業員を1人でも雇っている場合は労災保険に加入しましょう(※加入を義務付けられています)。

相談窓口の設置

2022年4月以降、すべての企業がハラスメント相談窓口の設置を義務づけられました(パワーハラスメント防止措置)。
労務問題を防止するため、ハラスメントをはじめとする相談窓口を社内に設けることも大切です。
以下のメリットなどを期待できます。

【期待できるメリット】

  • 事実関係を速やかに把握できる
  • 被害者に対する措置を速やかに行える
  • 加害者に対する措置を速やかに行える

問題が深刻化する前に対処しやすくなります。
ただし、相談窓口を設置するだけでは十分といえません。
その存在を周知するとともに、プライバシーを守る取り組みなどを徹底する必要があります。

労務管理システムの活用

労務に関する情報を適切に管理すると労務問題は起こりにくくなります。
社内の環境を把握してトラブルを早期に発見したり、記録をもとにトラブルの概要を正確に把握したりできるためです。
ただし、会社の規模によっては、労務管理に多大な労力がかかります。
対策として検討したいのが労務管理システムの活用です。
導入により次のメリットなどを期待できます。

【メリット】

  • 労務に関する情報を一元管理できる
  • 手間をかけずに社内の環境を正確に把握できる
  • 人為的なミスを減らしてトラブルを減らせる

労務管理システムは、労務全般を管理するものと一部のみ管理するものに分かれます。
いずれを導入する場合も、目的を踏まえて製品を選ぶことが大切です。

透明性の高い組織風土の醸成

都合の悪い事実を隠さない組織風土や従業員が不満を適切に伝えられる組織風土を醸成すると、労務問題は起こりにくくなります。
トラブルを早期に発見したり、不満の段階で対処したりできるためです。
透明性の高い組織風土を作る取り組みを紹介します。

【取り組みの例】

  • 行動指針を見直して従業員の意識改革を図る
  • 部署や立場を超えて意見交換できる場を設ける
  • 組織風土の醸成に役立つ教育や研修を実施する

経営層が率先して行動を変革することも重要です。

万が一労務問題が起こってしまった際の対応の流れ

原則として、労務問題には以下の流れで対応します。

【対応の流れ】

  1. 現状を把握する
  2. 過去に同様の事例がなかったかどうかを確認する
  3. 第三者機関や専門家に相談する

各ステップについて解説します。

①現状を把握する

最初に、関係者からの聞き取りと証拠の収集により事実関係を把握します。
手元にある情報が、事実関係を正確に表しているとは限らないためです。
聞き取りでは、以下の点を意識します。

【意識するポイント】

  • 中立の立場で情報を集める
  • 会社が不利になる情報も集める
  • できるだけ迅速に対応する

証拠の例として、勤怠データやメール履歴、チャット履歴が挙げられます。
時系列に沿って情報を整理すると、事実関係を把握しやすくなります。

②過去に同様の事例がなかったかどうかを確認する

次に、就業規則と本案件を照らし合わせて、以下の点を確認します。

【ポイント】

  • 労務問題に該当するか
  • 就業規則に基づく対応方法

並行して、過去の記録をもとによく似た事例がないか確かめます。
よく似た事例がある場合は、そのときの対応を参考に今後の方針を決定します。

③第三者機関や専門家に相談する

次に、第三者機関や専門家に本案件について相談します。
会社が負うべき法的責任の範囲を明確にするためです。
第三者機関の例として労働基準監督署や総合労働相談コーナー、専門家の例として弁護士が挙げられます。
顧問契約を締結している場合は、顧問弁護士に相談するとよいでしょう。
相談結果を踏まえて、原則として話し合いで解決を目指します。
ただし、当事者間で合意点を見いだせる保証はありません。
意見が対立する場合は、第三者機関あるいは専門家に改めて相談します。

労務問題の対応にあたる際の注意点

労務問題への対応で注意したい点は以下の通りです。

【注意点】

  • 多様な価値観を極力受け入れる
  • 証拠の改ざん・隠蔽を行わない

ここでは、各注意点について解説します。

注意点①多様な価値観を極力受け入れる

グローバル化や少子高齢化の進展、あるいは情報化などの影響を受けて、価値観の多様化が進んでいます。
これまでであれば、トラブルにならなかった言動が労務問題につながることもあります。
たとえば、昭和では当たり前だった叱咤激励が、パワハラと捉えられることもあるでしょう。
労務問題を予防するため、あるいは速やかに解決するため、多様な価値観を積極的に受け入れて働く環境を整えることが大切です。
相互理解が深まると、解決策を見いだしやすくなります。

注意点②証拠の改ざん・隠蔽を行わない

労務問題の内容によっては、会社にとって不利な証拠を改ざん・隠蔽したくなることもあるでしょう。
しかし、理由を問わずこのような対応は勧められません。
証拠の改ざんや隠ぺいが発覚すると、処罰される恐れがあるうえ、会社の社会的な信用も失ってしまうためです。
顧客から取引を停止されることも考えられます。
どのような理由があったとしても、誠実に対応することが重要です。

解決が難しい労務問題は弁護士に相談

本記事では、労務問題の具体例を紹介するとともに対策などを解説しました。
身近な例として、残業代の不払いやパワーハラスメントなどが挙げられます。
就業規則を整備したり相談窓口を設置したりして予防に努めることが大切です。
発生した場合は、必要な情報を集めてから対応方針を検討するとよいでしょう。
自社だけで対応が難しい場合は、弁護士などの専門家に相談することもできます。
東京で労働問題に強い弁護士をお探しなら青山東京法律事務所にご相談ください。
残業代請求、ハラスメント、問題社員の解雇など、幅広い労務問題を扱っています。お困りの方は、無料で利用できる初回面談をご活用ください。

監修者

植田統

植田 統   弁護士(第一東京弁護士会)

東京大学法学部卒業、ダートマス大学MBA、成蹊大学法務博士

東京銀行(現三菱UFJ銀行)で融資業務を担当。米国の経営コンサルティング会社のブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルタント。 野村アセットマネジメントでは総合企画室にて、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。その後、レクシスネクシス・ジャパン株式会社の日本支社長。 米国の事業再生コンサルティング会社であるアリックスパートナーズでは、ライブドア、JAL等の再生案件を担当。

2010年弁護士登録。南青山M's法律会計事務所を経て、2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。

現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論の講義を行う他、Jトラスト株式会社(東証スタンダード市場)等数社の監査役も務める。

無料相談を実施中