事業承継・M&A(Ⅴ)-事業譲渡と会社分割

M&Aは、通常対象会社の株式を購入する形で進められますが、対象会社の事業のみ(会社全体ではなく)を買収するという場合には、事業譲渡、若しくは、会社分割という手法が用いられます。

 

 

1. 事業譲渡とは?

事業譲渡とは、譲渡側、譲受側の双方による交渉により、譲渡する資産、負債、契約等を選択して、それを譲渡するものです。事業のすべてを譲渡するなら全部譲渡、範囲を定めて譲渡する場合は一部譲渡となります。譲渡の対象は、会社設備や不動産、債務・債権、人材、ブランド(のれん)、ノウハウなど、有形・無形の色々なものが含まれます。

 

 

2. 会社分割とは?

会社分割とは、株式会社または合同会社で運営している特定の事業について、その権利義務の全部または一部を包括的に別の会社へ承継する(資産、負債、契約等の譲渡とは違うということです。)ことをいいます。会社分割は、新規設立した会社へ承継する「新設分割」と、既存の会社へ事業を承継する「吸収分割」の2つがあります。

 

 

3. 事業譲渡と会社分割のメリット・デメリット

事業譲渡と会社分割はM&Aの手法の一つであって、譲渡企業の事業の全部、または一部を別の会社に承継させるという点では同じ効果を持っています。しかし、事業譲渡と会社分割には、それぞれメリットとデメリットがあるので、それを見ていきましょう。

 

① 会社法上の違い

会社法上は、事業譲渡は、いわゆる取引行為であり、会社分割は、会社法における組織再編行為に該当し、権利義務を包括的に承継することになります。一つ一つの契約などをそのまま承継でき、また、権利義務には、債務や契約上の地位などが含まれるので、債権者との個別の手続きがないということは大きなメリットです。

この他にも、会社法上の違いが、以下に述べる実務や法務、税務面での取り扱いの違いにつながってきます。

 

② 債権者の保護手続き

債権者保護手続きとは、取引先や金融機関などの債権者に対して、組織再編行為を行う旨を事前通知し、債権者からの異議申し立てを受け付ける期間を設ける手続きをいいます。

事業譲渡では債権者保護手続きは必要とされていません。しかし、債務を承継させるためには、債権者の個別同意が必要となり、また、事業譲渡契約書に明示されない債務については、引き継ぎの対象とはなりません。

会社分割では、会社の権利義務は譲受企業に包括的に承継されるため、債権者の承諾は必要ありませんが、原則的に債権者保護手続きが必要となります。

 

③ 雇用関係における違い

従業員との雇用関係については、事業譲渡は個別に労働契約を結び直す必要があるのに対し、会社分割では、労働者保護手続きがあるものの個別の再契約は必要ありません。

 

④ 許認可の違い

事業譲渡では、許認可を新たに取得する必要があります。

会社分割では包括承継の中に含まれるため、承継できるものもあります。ただし、承継できないものも多くあります。宅地建物取引業などの免許の取得や貸金業の登録などは新たにする必要があり、一般自動車運送事業や旅館業の許可などは行政庁の許可を必要とします。そのため、必要となる許認可について承継が出来るものであるかどうか、事前に確認しておくことが必要になります。

 

⑤ 税務の違い

事業譲渡では、資産、負債、契約等を一定金額で譲渡するものですから、その譲渡益に課税されます。

会社分割では、適格要件という条件があり、これを満たしていると、対価として株式や現金を取得しても譲渡益は課税対象となりません。ただし、適格要件を満たすためには、支配関係等によって異なる一定の条件を揃える必要があります。また、新設分割の場合には、会社の設立登記を行う際に必要な登録免許税なども課税されます。

 

 

4.事業譲渡と会社分割の選択

上記のように、事業譲渡と会社分割には、手続面での違いがあります。一般的には、会社分割の方に多くのメリットがありますが、個々のケースでどちらが適切かの判断をしていく必要があります。