労働問題(Ⅲ)-試用期間中の解雇

1. 試用期間とは

一般的には、従業員としての適格性を観察・評価するための期間のことをいいますが、法律上には明確な定義がありません。

過去に裁判で試用期間の終了による解雇が争われた例はあり、最高裁は、試用期間の性質については、個々の事案に応じて判断すべきとしつつ、解約権が留保されている労働契約が成立していると言っています。つまり、労働契約が成立しているが、解約権が留保されているので、客観的・合理的理由があり、社会通念上相当な場合は、当該解約権を行使し、採用を拒否することができるということになります。

 

 

2. 試用期間中あるいは終了後の解雇

試用期間中あるいは終了後の解雇は、留保していた解約権の行使とみることができますので、裁判例では、留保の趣旨からみて、本採用後よりは解雇が認められやすいと判断されています。

とはいえ、解雇権の行使である以上、客観的・合理的理由があり、社会通念上相当でなければならず、これらの要件を満たさない場合は、留保解約権の行使であるとはいえ無効となります。

 

 

3. 過去の裁判例

解雇が有効とされた場合は、次のようなケースです。

  • 雅叙園観光事件(1985年)
    周囲とのトラブルが絶えなかった労働者が、就業規則にある解雇事由「就業態度が著しく不良で他に配置転換の見込みがないと認めたとき」に該当するとされた
  • ブレーンベース事件(2001年)
    緊急の業務指示に速やかに応じない、面接でパソコン使用に精通していると述べていたのに満足にできない、代表取締役の業務上の指示に応じない場合に、解雇が有効とされた
  • キングスオート事件(2015年)
    シニアマネージャーとして高い能力の発揮が求められていたが、十分な時間をかけて指導したのに単純作業を適切にできないなど基本的な業務遂行能力が乏しく、管理職としての適格性に疑問を抱かせる態度もあり、事業の規模から配置転換も困難であるなどから解雇が有効とされた

 

 

他方、解雇が無効とされた裁判例は、下記のようなものです。

  • テーダブルジェー事件(2001年)
    「会長に声を出してあいさつしなかった」という解雇理由は、社会通念上相当性を欠くとされた
  • ニュース証券事件(2009年)
    証券営業マンの成績不振を理由とした解雇に対し、わずか3か月の手数料収入のみで資質などが従業員として適格でないとは認めることはできないとされた
  • オープンタイドジャパン事件(2002年)
    年俸1300万円で採用した部長につき、「業務の速やかさに欠け、会社の方針に合わない」として2か月余りで本採用を拒否した事案で、判決では、業務遂行の状況は不良とはいえず、たとえ能力が期待通りでなかったとしても、2か月で職責を果たすことは困難とした

 

 

こうした裁判例から見ると、以下のような項目が解雇の相当性の判断基準となっているものと考えられます。

  • 業務指示に応じていたか
  • 自己申告した能力・経験に見合った実績が出ていたか
  • 会社側から指導があり、実績を残すチャンスを与えたか

 

 

4. 試用期間の延長

こうした試用期間中に適性があるのかどうかを判断できない社員に対して、試用期間の延長は認められるのでしょうか。

 

適性を判断するのに合理的な期間を超えて試用するのは、労働者に不利益を与えることになり公序良俗に反する可能性があるので、試用期間を延長する場合は、以下の点に注意をしていくことになります。

  • 就業規則に定めているか
  • 合理的な理由があるか
  • 延長期間が社会通念上妥当な長さであるか
  • 試用期間満了前に告知しているか