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Ⅳ 企業間取引のルール(独禁法、下請法)-優越的地位の濫用、不当な取引とは
企業間でどのような条件で取引をするかは、基本的には当事者間で決めることになります。
しかし、企業間の力関係を見ると、一方の当事者が相手方より圧倒的に有利な立場にいることもあり、当事者に任せておくと、公正な取引が行われなくなる恐れがあります。
そこで、独占禁止法は、優越的地位の濫用を禁止しています。
目次
1 独占禁止法の規定
独占禁止法19条は不公正な取引方法を禁止するとし、2条9項5号は、優越的地位の濫用を、不公正な取引方法として禁止しています。
独占禁止法19条(不公正な取引方法の禁止)
事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。
独占禁止法2条9項
この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。
5号 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。
イ 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。
ロ 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。
2 優越的地位の濫用とは
優越的地位の濫用が成立する要件は、
(1)優越的地位にあること
(2)その地位を利用して一定の行為を行ったこと(濫用行為)
(3) (2)の行為が正常な商慣習に照らして不当なものであること(公正競争阻害性)
の3つとなります。
(1)優越的地位にあること
公正取引委員会が策定した「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」 (以下「ガイドライン)という)によると、「甲が取引先である乙に対して優越した地位にあるとは、乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても、乙がこれを受け入れざるを得ないような場合」とされています。
その判断は、乙の甲に対する取引依存度、甲の市場における地位、乙の取引先変更の可能性等の具体的事実を総合的に考慮してなされます。
(2)濫用行為
独占禁止法2条9項5号によれば、以下の3つの行為となります。
イ 購入・利用強制
ロ 協賛金等の負担の要請、従業員等の派遣の要請、その他経済上の利益の提供の要請
ハ 受領拒否、返品、支払遅延、減額、その他取引の相手方に不利益となる取引条件の設定等
(3)公正競争阻害性
当該行為が優越的地位を利用した濫用行為であるか、また、正常な商慣習に照らして不当かどうか(公正競争阻害性のある行為かどうか)は、不利益の程度や行為の広がり等を勘案して、個別の事例ごとに判断されます。この点については、「ガイドライン」に具体例が示されています。
3.違反した場合の効果
公正取引委員会によって優越的地位の濫用に当たると判断された場合、濫用行為の排除を命じる排除措置命令(法20条)、課徴金を課す課徴金納付命令(法20条の6)が下されることがあります。
独占禁止法20条1項(排除措置)
前条の規定に違反する行為があるときは、公正取引委員会は、第八章第二節に規定する手続に従い、事業者に対し、当該行為の差止め、契約条項の削除その他当該行為を排除するために必要な措置を命ずることができる。
独占禁止法20条の6
事業者が、第十九条の規定に違反する行為(中略)をしたときは、公正取引委員会は、第八章第二節に規定する手続に従い、当該事業者に対し、違反行為期間における、当該違反行為の相手方との間における政令で定める方法により算定した売上額(中略)に百分の一を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。ただし、その額が百万円未満であるときは、その納付を命ずることができない。
また、取引の当事者間においては、独占禁止法上の差止請求(法24条)、無過失責任の損害賠償請求(法25条)といった民事上の請求をすることも考えられます。
4.企業間取引への示唆
企業間取引では、商品の受領後に返品を求められたり、値引きを求められたりする等、優越的地位の濫用に当たるのではないかと見られる事例があります。
取引の当事者としては、それが独占禁止法の禁止する優越的地位の濫用にあたらないのかを慎重に検討し、適切な取引関係を維持するように努めていく必要があります。
監修者
植田 統
1981年、東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。
ダートマス大学MBAコース留学後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルティングを担当。
野村アセットマネジメントで資産運用業務を経験し、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。
レクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長を務め、経営計画立案・実行、人材マネジメント、取引先開拓を行う。
アリックスパートナーズでライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当。
2010年弁護士登録後、南青山M's法律会計事務所に参画。2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を講義。数社の社外取締役、監査役も務める。