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Ⅱ 企業間取引のルール(独禁法、下請法)-親事業者→下請事業者に対する支払いで問題となる事例

1 月末締めの翌月末払いとなっている場合(企業間取引で非常に多い支払いサイクル)

契約書にこのような定めがある場合、例えば、親事業者が3月1日に物品を受領し、3月末に締め、4月30日に支払いをした場合、60日の計算には3月1日も入りますから、61日目に支払いをしたことになり、法律の規程に従えば、下請法に反することになる。

 

しかし、このように実務上非常に多い支払いサイクルがすべて下請法違反となると、大きな混乱が生じるので、「受領後60日以内」の規定は「受領後2ヶ月以内」として運用されている。

 

ただし、受領後2ヶ月以内なので、月末締めの翌々月末払いとしてしまうと、3月1日に物品を受領し、3月末に締め、5月31日に支払いをした場合、92日後の支払いとなり、2ヶ月を過ぎてしまうので、下請法に反することになる。

2 下請事業者からの請求により支払うこととなっている場合

実務上、次に多いと思われる支払いサイクルは、下請事業が、親事業者に対し、月末締め後翌月10日までに請求書を提出、親事業者は請求書を精査の上、当月末までに支払うという場合である。

 

1の例を使って説明すると、3月1日に製品受領、3月31日締め、4月10日請求書発行、4月30日支払という場合である。

 

仮に下請事業者からの請求書の作成が4月15日となってしまった場合、4月10日の請求書作成日を遅延しているので、この請求書の支払いは5月31日となってしまう。

 

しかし、法律の規定に従えば、3月1日から60日(2ケ月)以内に支払わなければならず、5月31日まで支払わなければ、支払い遅延として下請法に違反することになる。

 

したがって、親事業者としては、下請事業者が請求書を集計し、親事業者に提出するのに十分な期間を確保し、もし下請事業者からの請求書の提出が遅れたときは、速やかに請求書を提出するよう督促しなければならない。

3 検査に合格した日をもって引渡しがあったとみなす場合

売買基本契約書などで、5日とか10日とかの検査期間を設け、物品を受領後、検査に合格したときをもって引渡しがあったものとみなすと規定されていることもよくある。

 

この場合でも、法律の規定によれば、60日の期間は、親事業者が下請事業者から物品を受領した日から数えるのであり、検査に合格し、引渡しがあったとみなされたときから数えるのではない点は要注意である。

4 下請代金の支払いを手形でする場合

今では手形の利用は少なったが、下請代金の支払いを手形ですることとしている場合、親事業者は下請事業者に対し、支払期日までに手形で支払いをすれば、それで支払いを行ったとみなされるので、問題ない。

 

このように手形による支払いが認められているのは、手形の割引をすることによって、すぐに現金化することができるからである。

5 やり直しをさせた場合の支払期日の起算日

下請事業者が納品した物品に契約不適合など、下請事業者の責に帰すべき理由があり、受領した物品のやり直しをしてもらった場合、60日の起算日は、やり直しをした物品を受領した日になる。

 

なお、もちろん下請事業者の責に帰すべき事情がない場合は、物品のやり直しをしてもらうことはできず、このような場合に物品のやり直しを要求した場合は、下請法4条2項4号の不当なやり直しの禁止に反することになる。

6 金融機関の休業日

毎月の特定日に金融機関を利用して下請代金を支払うとしている場合(例えば、月末に支払う場合)、この日が金融機関の休業日にあたるときは、支払いが休業日の翌営業日になり、支払遅延ということになってしまうが、これについては、例外が設けられている。

 

1 休業日後の支払いが、受領から60日を超えてしまう場合

次の2つの条件を満たせば、支払い遅延にはならない。

 

ア 支払日が、土曜日、日曜日にあたるなど、順延する日が2日以内である。

イ 親事業者と下請事業者との間で、支払いを休業日の翌営業日に順延することについて、あらかじめ合意し書面化されている。

 

2 休業日後の支払いが、受領から60日(2ヶ月)以内の場合

親事業者と下請事業者との間で、支払いを休業日の翌営業日にすることについて、あらかじめ合意し書面化されていれば、問題にはならない。

7 情報成果物の場合の支払期日の起算日

情報成果物の作成を委託した場合、親事業者が、下請事業者が作成している情報成果物の内容を確認するなどのために、注文品を一時的に、親事業者の支配下に置くことがある。

 

この場合、次の2つの条件を満たす場合は、②の一定の水準を満たすことを確認した時点を受領日とし、親事業者の支配下に置いた時点を受領日としないことができる。つまり、60日の期間も、一定の水準を満たすことを確認した日から進行する。

 

① 注文品が委託内容の水準に達しているか明らかではない。

② あらかじめ親事業者と下請事業者の間で、親事業者の支配下に置いた注文品の内容が、一定の水準を満たしていることを確認した時点で受領することを合意している。

8 下請取引に商社が入る場合

商社が、製造の委託者、受託者の間に入って取引を(独禁法、下請法)行うが、製品の仕様、数量、価格、納期など製造委託の内容には関与せず、事務手続きの代行(書面の取次、下請代金の請求、支払ないなど)を行っているにすぎない場合、商社は、下請法上の親事業者、下請事業者にはならず、委託者が親事業者、受託者が下請事業者になるとされている。

 

したがって、商社と下請事業者との間で決められた支払日までに下請代金が支払われない場合、委託者である親事業者が支払い遅延をしたことになり、下請法に違反することになる。

 

そのため、親事業者としては、商社を経由して下請代金を支払うことになる場合は、あらかじめ商社から下請事業者に対して、いつ下請代金が支払われるのかを確認し、支払期日までに下請事業者に下請代金が支払われるよう、商社との間で事前に取り決めを行っておく必要がある。

監修者

植田統

植田 統

1981年、東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。
ダートマス大学MBAコース留学後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルティングを担当。
野村アセットマネジメントで資産運用業務を経験し、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。
レクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長を務め、経営計画立案・実行、人材マネジメント、取引先開拓を行う。
アリックスパートナーズでライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当。
2010年弁護士登録後、南青山M's法律会計事務所に参画。2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を講義。数社の社外取締役、監査役も務める。

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