取締役会の運営(Ⅵ)-取締役会設置会社と非設置会社における取締役の権限

1.取締役会設置会社における取締役の職務・権限

取締役会設置会社では、取締役会、代表取締役、取締役、監査役の4つの機関が存在します。

代表取締役は会社を代表し、会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有し、監査役は取締役の職務の執行を監査しますが、取締役の職務・権限は下記の通りです。

(1)取締役会の構成員としての職務・権限

取締役は取締役会の構成員です。取締役は、取締役会における議事に参加し、決議に際しては議決権を行使します。取締役会の権限は、会社の業務執行の決定、取締役の職務の執行の監督、代表取締役の選定及び解職です。

 

業務執行の決定とは、会社の業務に関する意思決定です。会社の業務には事業計画の立案、資金調達、投資の実行、製品・サービスの提供、営業活動、人材管理などが含まれますが、これらに関する方針を策定し個別事案について判断を下すのが業務執行の決定です。

取締役の職務の執行の監督とは、個々の取締役が適正に職務を行っているかを監督することで、特に重要なのは、業務執行権限を有する代表取締役や業務執行取締役の業務執行を監督することです。代表取締役の選定及び解職は、代表取締役を誰にするかを決定し、不適任であれば解職することです。

 

判例では、取締役の監視義務は取締役会に上程された事柄に限られないとされており、そのため、取締役会に上程された事柄でなくとも、必要に応じて業務執行が適正に行われるようにすることが求められています。

 

このように、取締役会設置会社において、取締役会が代表取締役を監視・監督することが想定されていますが、殆どの会社では、代表取締役は社長の地位にあり、代表取締役社長は会社における指揮命令系統のトップに位置し、事実上、各取締役の人事権を含む広範な決定権を有しています。そのため、代表取締役が各取締役の所掌業務を決定し、そのパフォーマンスを評価しているのが実態です。つまり、取締役で構成される取締役会が代表取締役の業務執行を監視・監督することは期待できないという現実があります。

 

(2)業務執行権限

代表取締役は会社の業務を執行する権限を有しますが、代表取締役以外の取締役についても、取締役会の決議によって業務執行取締役として選定された場合には会社の業務を執行する権限を有することになります。業務執行取締役としての選定手続きがなされていなくても、取締役が業務執行を行うことは実務上多くみられます。

 

取締役が使用人を兼ねる取締役(使用人兼務取締役)である場合、使用人としての立場で業務執行を行います。使用人兼務取締役としての業務執行は取締役固有の権限としての業務執行とは理論上は区別されるべきものですが、実態としては重なり合っており、その区別は明確でありません。いずれの立場の業務執行であっても、業務執行の最高責任者である代表取締役の指揮又は委任の下に行われることになります。

 

 

2.取締役会非設置会社における取締役の役割

取締役会非設置会社の機関は、基本は取締役だけですが、代表取締役が選任された場合には、代表取締役も存在します。取締役の職務・権限は、次のようなものになります。

 

(1)業務執行の決定

取締役会非設置会社においては取締役が業務執行の決定を行い、取締役が複数の場合には過半数をもって決定することになります。

 

(2)業務執行権限

取締役会非設置会社の各取締役は業務執行権限を有します。

 

(3)代表権

取締役会非設置会社の各取締役は会社を代表する権限を有します。具体的には、他の会社と契約を締結するなどの対外的な行為を行うことができます。ただし、取締役の中から代表取締役を選定した場合には、代表取締役のみが代表権を有します。