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監修者:植田 統 弁護士(第一東京弁護士会)
青山東京法律事務所 代表
東大法学部卒、ダートマス大学MBA。東京銀行、ブーズ・アレン、アリックスパートナーズ等で経営戦略や企業再生の要職を歴任。現在は青山東京法律事務所代表として、約40社の顧問弁護士を務める。豊富なビジネス経験を武器に、高度な企業法務や事業承継を完遂する実務派弁護士。

2026年1月1日より、下請代金支払遅延等防止法(下請法)が改正され、新たに中小受託取引適正化法(取適法)として施行されました。この法改正は、事業者間で業務委託取引を行うにあたり非常に重要な意味合いを持ちます。

そこで本記事では、下請法と取適法の違いを中心に、取適法で発注者に課される義務や、違反した場合のペナルティなどについても解説します。

下請代金支払遅延等防止法(下請法)とは

従来運用されていた下請代金支払遅延等防止法(下請法)は、受託者となる下請事業者が不利益を被ることのないよう、発注者と受託者の取引を公正にするために作られた法律です。

法律が作られた当時は発注者による支払いの遅延が特に問題となっていたため、このような名称となっていますが、支払遅延のトラブルだけを防止する内容ではありません。たとえば、一方的な値引きや、著しく低い価格による買いたたきなど、発注者と受注者の力関係によって発生しうるトラブルを防ぐ内容が制定されていました。

中小受託取引適正化法(取適法)とは

中小受託取引適正化法(取適法)は、下請法を改正して作られた法律で、2026年1月1日より施行されました。単に下請法から名称を変えただけでなく、内容も大幅に見直されています。

下請法との具体的な違いは後述しますが、大きな軸となっているのは「弱い立場である受託者の保護」および「発注価格の決定プロセスの整備」です。発注条件を明確にして、発注者と受託者の双方が納得できる価格を成立させるために、さまざまな点が下請法から変更となりました。

取適法の目的

下請法から取適法に法改正が行われた背景には、以下の3つの目的が挙げられます。

【取適法の目的】

  • 不当な価格決定を防ぐ
  • 支払条件を見直す
  • 保護対象を拡大する

不当な価格決定を防ぐ

取適法の大きな目的は、発注者による一方的な価格決定を防ぎ、受託者を守ることです。

従来は、発注者が合理的な理由を示さずに価格を据え置く、あるいは減額するといったケースもありました。一方で原材料費やエネルギー費、人件費は上昇しつづけています。結果、受託者側の資金繰りが悪化し、ひいてはサプライチェーン全体で競争力が低下しかねない事態となっていたのです。

こうした問題を踏まえて、取適法では発注者が一方的な理由で条件を決めることができないようにルールが定められました。受託者が利益を確保し、設備投資や人材確保のための賃上げなどを行いやすい環境となることを目的としています。

支払条件を見直す

受託者側の資金繰りを圧迫していた一因である、支払条件を見直すことも取適法の目的として挙げられます。

なぜ、支払条件と受託者の資金繰りが関係しているのかというと、約束手形を支払いに使われることで、受託者が代金を受け取れるまでの期間が長期化していたためです。
これまで下請法では、現金決済の場合は遅くとも2か月以内に決済することが定められていました。しかし、約束手形を使えば、発注者は支払サイトを延長できる仕組みとなっていたのです。
結果、受託者が成果物や商品を納品してから現金を得るまでに平均100日程度かかっており、資金繰りに大きな影響を与えていました。

取適法では、約束手形の禁止などのルールを新たに定めることで、支払サイトの長期化から受託者を守っています。

保護対象を拡大する

取適法では、個人事業主や小規模事業者も保護の対象とされています。これは、より多くの事業者が、公平な条件のもとで取引を行えるようになることを目的としているためです。

下請法では、発注者と受託者の資本金規模が基準として定められており、対象が一部の企業に限定されていました。発注者の資本金が小さい場合や、受託者がフリーランス・個人事業主であった場合などは法律によって守ってもらえなかったのです。
このルールによる取りこぼしを防ぐため、取適法では、資本金にかかわらずすべての受託者が保護対象となっています。

下請法と取適法の違い

取適法への改正によって、以下の5つの点が下請法から改正されました。ここでは、下請法と取適法の具体的な違いを解説します。

【下請法からの主な改正点】

  • 法律名や用語
  • 適用範囲
  • 対象となる事業者
  • 禁止行為
  • 面的執行

法律名や用語

下請代金支払遅延等防止法(下請法)から中小受託取引適正化法(取適法)に法律名が変更となりましたが、ほかにも以下の用語が変更されています。

【下請法と取適法の用語の違い】

下請法 取適法
親事業者(発注者) 委託事業者
下請事業者(受託者) 中小受託事業者
下請代金 製造委託等代金

「親事業者」「下請」といった言葉が、上下関係を想起させるため、「委託事業者」をはじめとする中立的な言葉に変更されました。

適用範囲

下請法では、対象となる取引が4類型に限定されていましたが、取適法への改正により、「特定運送委託」「金型以外の型・治具等の製造委託」が追加となりました。
具体的な内容は以下をご覧ください。

【取適法の適用範囲】

大規模基準が適用される取引 中規模基準が適用される取引
l   製造委託(※金型以外の木型・治具なども対象に追加)

l   修理委託

l   情報成果物作成委託(ソフトウェア・プログラムなど)

l   役務提供委託(情報処理など)

l   特定運送委託(※2026年新設)

l   情報成果物作成委託(ソフトウェア・プログラム以外。デザイン、映像、各種コンテンツなど)

l   役務提供委託(情報処理以外。ビルメンテナンス、コールセンター、運送以外のサービス全般など)

類型ごとに、取適法が適用となる事業者の資本金・従業員数の条件が異なるため、上記では「大規模基準」「中規模基準」と記載しています。詳細な条件については次の項をご覧ください。

なお、特定運送委託においては、長時間の荷待ちや無償での荷役の要請も取適法の適用対象となるため、業界で長年起きていた問題に対処できる仕組みとなりました。

また、金型以外の型・治具等の製造委託については、木型や樹脂型なども対象となっています。そのため、特定の製品専用の型を無償で使用させたり、保管したりする行為があった場合は適正な対価が支払われることになりました。

対象となる事業者

下請法では、発注者と受託者それぞれの資本金規模によって適用対象が決められていたため、資本金の基準だけでは対象とならない事業者も多くいました。しかし取適法で従業員数の基準が新たに追加されたことにより、資本金または従業員数いずれか一方の要件を満たせば、対象となることとなりました。

まず、先ほど紹介した「大規模基準」に該当する製造・修理・プログラム作成・情報処理・特定運送に関する委託においては、以下の要件が設定されています。

製造・修理・プログラム作成・情報処理・特定運送での要件
委託事業者(発注側)の要件 中小受託事業者(受注側)の要件
資本金3億円超または従業員300人超 資本金3億円以下(個人含む)または従業員300人以下
資本金1,000万~3億円 資本金1,000万円以下(個人含む)

続いて、先ほど紹介した「中規模基準」に該当するプログラム以外の情報成果物作成や、情報処理以外の各種サービスに関する委託における要件は以下です。

プログラム以外の情報成果物作成・情報処理以外の各種サービスでの要件
委託事業者(発注側)の要件 中小受託事業者(受注側)の要件
資本金5,000万円超または従業員100人超 資本金5,000万円以下(個人含む)または従業員100人以下
資本金1,000万~5,000万円 資本金1,000万円以下(個人含む)

それぞれ、資本金の観点と従業員数の観点で基準が定められていますが、いずれかに該当すれば取適法の適用対象となります。

これまで保護を受けられなかったフリーランス・個人事業主や小規模事業者なども、取適法によって守られるようになったということです。
また、過去には資本金をあえて1,000万円以下に抑えることで下請法の規制対象から外れる、いわゆる「下請法逃れ」を行っていた企業も存在しました。しかし取適法ではそのような企業でも、従業員数が基準を満たせば取適法の規制対象となります。

禁止行為

下請法で禁止されていた9つの行為に加え、新たに「協議に応じない一方的な代金の決定」「手形払いなどによる実質的な支払い遅延」の2点が取適法で禁止されます。
従来の項目を含めた具体的な禁止行為は以下をご覧ください。

【取適法での禁止行為】

  • 受領拒否
  • 製造委託等代金の減額
  • 返品
  • 買いたたき
  • 購入・利用の強制
  • 報復措置
  • 有償支給原材料等の対価の早期決済
  • 不当な経済上の利益の提供要請
  • 不当な給付内容の変更・やり直し
  • 協議に応じない一方的な代金の決定
  • 手形払いなどによる実質的な支払い遅延

「協議に応じない一方的な代金の決定」とは、受託者が価格の引き上げを求めたにもかかわらず、発注者が協議に応じない、あるいは必要な説明を行わず一方的に代金を決めることです。これを禁止することで、受託者に価格交渉の機会が与えられるようになります。
ポイントは、「発注者が値上げに応じる義務」ではなく、あくまでも「協議に応じる義務」であるという点です。これまでは発注者との関係性によって受託者には交渉の機会すら与えられないことがありましたが、この改正によって交渉を行えるようになりました。

もう一つの禁止行為である「手形払いなどによる実質的な支払い遅延」は、約束手形や電子記録債権、一括決済方式など、支払期日までに代金を満額得ることができない方法による支払いを指します。
発注した物品などの受領日から60日までに支払期日が定められている点は、下請法でも取適法でも同じです。しかし先述したように、従来は約束手形など一部の支払い方法によって支払いサイトが長期化し、受託者がなかなか代金を得られないという問題が発生していました。
手形払い自体は政府によって2026年度末の廃止が進められていますが、その方針をあと押しするかたちで、取適法でも禁止行為となっています。

面的執行

面的執行とは、複数の省庁が連携して事業者の違反行為に対応することを指します。下請法から取適法への改正によって、この面的執行も強化されることとなりました。

これまでは、違反行為に対して公正取引委員会や中小企業庁が指導や助言を行ってきました。取適法ではさらに、事業所管省庁の主務大臣にもその権限が付与されます。
また、受託者が発注者の違反行為を申し出たことを理由に、発注者が取引停止等を行う、いわゆる「報復措置」があった場合は、事業所管省庁の主務大臣に申告できるようになりました。

取適法で発注者に課される義務

取適法では、業務委託取引を行うにあたり、発注者に課される義務についても定められています。

【取適法で発注者に課される義務】

  • 書類の作成・保存義務
  • 発注内容などの明示義務
  • 支払期日を定める義務
  • 遅延利息の支払義務

書類の作成・保存義務

委託した業務内容や支払い状況などの取引内容を、取引完了後にまとめる義務です。書類または電磁的記録として作成し、2年間保存しなければなりません。

発注内容などの明示義務

新たに発注を行う際は、委託内容や報酬額、納期、支払期日など、契約における重要事項を書類または電子メールなどで明示する義務があります。そのため、口頭・電話でのやり取りや、あいまいな内容での発注は認められません。

支払期日を定める義務

支払い期日は、成果物を受領した日、あるいは役務の提供を受けた日から起算して60日以内の、できるだけ短い期間内で定めることとされています。さらに先述の通り、約束手形などの支払サイトを実質的に延長できる手段での支払いは禁止されています。

遅延利息の支払義務

あらかじめ定められた支払期日までに代金を支払わなかった場合は、遅延利息を受託者に支払わなければなりません。利息の額は、成果物などの受領日から60日を過ぎた日から実際に支払うまでの日数に応じ、年率14.6%で計算されます。

また、正当な理由なく本来の代金から減額して支払った場合も遅延利息の支払義務が発生します。この場合、利息を支払う期間は、支払代金を減額した日、あるいは成果物などの受領日から60日を経過した日のいずれか遅い日から、減額分を支払う日までのあいだです。

取適法に違反した場合に課されるペナルティ

取適法の違反が疑われる場合は、中小企業庁や事業所管省庁、公正取引委員会より、指導や勧告措置が行われます。なお、勧告が行われると、企業名や違反の内容が公表される可能性があります。

たとえ受託者の了解を得ている場合や、発注者に違反の意識がない場合であっても、取適法の内容に違反していれば違反行為と認定されてしまう点に注意が必要です。企業名が公表されると、信頼を失うことで今後の取引に影響する可能性もあるため、法令遵守を徹底しましょう。

下請法と取適法の違いを把握し、クリーンな取引を

下請法から取適法への改正により、適用範囲や禁止行為をはじめとするさまざまな点が変更となりました。

手形払いなど、これまで慣習的に続いていた行為もこれからは違反となるケースが多くあります。意図せず違反してしまうことのないよう、改めてルールを確認しましょう。

なお、取適法への対応にお悩みの事業者様は、青山東京法律事務所にぜひご相談ください。建設業や製造業、サービス業等、幅広い業界で企業法務サービスを提供しております。
初回面談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

監修者

植田統

植田 統   弁護士(第一東京弁護士会)

東京大学法学部卒業、ダートマス大学MBA、成蹊大学法務博士

東京銀行(現三菱UFJ銀行)で融資業務を担当。米国の経営コンサルティング会社のブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルタント。 野村アセットマネジメントでは総合企画室にて、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。その後、レクシスネクシス・ジャパン株式会社の日本支社長。 米国の事業再生コンサルティング会社であるアリックスパートナーズでは、ライブドア、JAL等の再生案件を担当。

2010年弁護士登録。南青山M's法律会計事務所を経て、2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。

現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論の講義を行う他、Jトラスト株式会社(東証スタンダード市場)等数社の監査役も務める。

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