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下請代金はいつまでに支払わなければならないのか

1 下請代金の支払に関する建設業法の規定

建設業には、下請代金遅延等防止法の適用はありません。建設業法第24条の3は以下のように定めています。

 

(下請代金の支払)

第二十四条の三

元請負人は、請負代金の出来形部分に対する支払又は工事完成後における支払を受けたときは、当該支払の対象となった建設工事を施工した下請負人に対して、当該元請負人が支払を受けた金額の出来形に対する割合及び当該下請負人が施工した出来形部分に相応する下請代金を、当該支払を受けた日から一月以内で、かつ、できる限り短い期間内に支払わなければならない。

2 前項の場合において、元請負人は、同項に規定する下請代金のうち労務費に相当する部分については、現金で支払うよう適切な配慮をしなければならない。

3 元請負人は、前払金の支払を受けたときは、下請負人に対して、資材の購入、労働者の募集その他建設工事の着手に必要な費用を前払金として支払うよう適切な配慮をしなければならない。

 

つまり、元請けは、下請けに対して、下請代金を「1か月以内」かつ「できる限り短い期間内」に支払わなければなりません。そして、このルールは、注文者から工事が完成した後に支払いを受けたときや、請負代金の出来形部分に対する支払いを受けたときも適用されます。

 

また、資材購入等の費用確保のために元請負人が注文者から前払いを受けたら、下請負人に対しても工事着手に必要な費用を前払い金として支払うよう努める必要があるのです。

 

下請代金が支払われないと下請負人の経営状況に関わる上、手抜工事や労災事故等を引き起こしかねませんので、建設業法は、適正な施工の確保と、下請負人の利益保護のために、このような規定を設けているのです。

 

2 特定建設業者の支払期日のルールはより厳格

特定建設業者とは、建設業許可の一種で、1件につき合計4,500万円以上(建築一式工事の場合は7,000万円以上)の建設工事を下請に出す場合に取得が義務付けられた許可のことですが、こうした大手の業者に対しては、より厳格な規定が設けられています。

 

特定建設業者は、注文者から支払いを受けていなくても、下請負人からの工事引渡しの申出日から50日以内に下請代金を支払わなければならない(ただし、特定建設業者と契約をした下請負人が「特定建設業者」または「資本金額が4,000万円以上の法人」である場合はルールの対象外)のです。

 

特定建設業者は下請代金の支払いについて、元請負人と特定建設業者の2つの義務を負っているので、「注文者から出来形払いや完成払いを受けた日から1か月以内」もしくは「下請負人の引渡し申出があった日から50日以内」のいずれか早いほうで下請代金を支払わなければならないということになります。

 

毎月の締日と支払日を設定する場合、下請負人から工事引渡しの申出があった日から50日を超えてしまうこともあるので、細心の注意が必要です。

 

3 下請代金は現金で支払う

下請代金の支払手段について、令和2年10月施行の改正建設業法により、現金で支払う配慮をするよう規定が設けられました。

 

それ以前も、「下請代金の支払いはできるだけ現金払い」と周知されていましたが、この時の改正によって建設業法にその旨の条文が新設されました。現金払いの義務化ではなく、あくまでも「適切な配慮」を求めています。

 

ここで言う「現金」とはすぐに現金化できるものを指しており、キャッシュはもちろん、銀行振込や小切手はOKですが、サイトの長い手形はダメということになります。

 

4 下請けへの代金の支払いに関するトラブルが起こったら、早めに弁護士へ相談を

下請けへの代金の支払いに関するトラブルは、なによりも建設業法に従って、適切に処理していくことが大切です。また、施工ミスがあり、損害賠償債権と代金債務を相殺したい等の事情がある場合にも、どのように取り扱ったらよいのか悩む場合が出てきます。

 

自社が元請けの立場にある場合、下請けの立場にある場合とも、法律の解釈が難しい場合がありますので、早めに弁護士に相談されることをお勧めします。

監修者

植田統

植田 統

1981年、東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。
ダートマス大学MBAコース留学後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルティングを担当。
野村アセットマネジメントで資産運用業務を経験し、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。
レクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長を務め、経営計画立案・実行、人材マネジメント、取引先開拓を行う。
アリックスパートナーズでライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当。
2010年弁護士登録後、南青山M's法律会計事務所に参画。2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を講義。数社の社外取締役、監査役も務める。

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