公開日: 更新日:
相続手続きは複雑な部分も多く、専門家に依頼されるケースもあります。
一方で、費用を抑えたいなどの理由から自分で手続きを進めたい方もいます。
本記事では「自分で相続手続きを進めたいけれど、何から始めればいいのか悩んでいる」「必要な書類がわからない」という方に向けて、自分で相続手続きを進める際の基本的な流れや必要書類を解説します。
また、どのようなケースでは専門家に依頼したほうがよいかも分かるようになるので、ぜひご覧ください。
目次
相続手続きは自分で行うことが可能?
そもそも、相続手続きは自分で行えるものなのでしょうか。
結論として、法律上は自分で行うことも可能ですが、複雑な法律や税務が関わるため、専門家への依頼が適切な場合もあります。
費用を節約するために自分で対応する方もいますが、難しい手続きが含まれることについては理解しておきましょう。
たとえば、公共料金の名義変更などの手続きは比較的簡単に進められます。
一方で法律や税金に関する部分は専門的な知識が必要です。
間違いがあると後のトラブルにつながるおそれがある点は理解しておく必要があります。
以下に該当するのであれば、自分で相続手続きを行える場合もあります。
【自分で手続きしやすいケース】
- 相続の内容が単純でわかりやすい
- 手続きのための時間と余裕がある
- 専門的な手続きについて学ぶ気力がある
- 他の相続人が手続きに協力的である
具体的な進め方を解説するため、これらの点を踏まえて判断してください。
相続手続きを自分で行う場合に必ずすべきこと
相続を自分で行う場合、先に全体の流れを確認しておくことをおすすめします。
ここでは、手続きを進めていく際の基本的なステップについて解説します。
相続人調査
相続人調査とは、被相続人(亡くなった人)にどのような相続人がいるのかを確かめるための調査です。
相続できる範囲や相続分は、民法で決められています。
はじめに、被相続人の出生から死亡までの戸籍をすべて取得し、誰が相続権を持っているのかを確認します。
相続人であれば、故人の本籍地がある役所で戸籍謄本を申請できます。
もし本籍地がわからない場合は、住民票を取り寄せて確認できます。
また、直接役所に戸籍謄本を申請しに行くのが難しい場合は、郵送での手続きもできます。
ただし、郵送で戸籍謄本を取り寄せるのには時間がかかることがあるため、できるだけ早めに着手しておきましょう。
「戸籍謄本がなくても、親族に確認すれば相続人が判明するのでは」と考える方もいるでしょう。
しかし、戸籍謄本を取得してみたところ、親族も知らなかった離婚や再婚、養子縁組などが判明したケースもあります。
誤って相続人を確定すると後のトラブルにつながるおそれがあるため、戸籍謄本で正しい内容を確認しましょう。
相続財産調査
相続財産調査とは、相続対象となる遺産の調査作業です。
現金や預貯金のほかにも、不動産、株式、保険金など、さまざまな種類の財産があります。
被相続人に財産はないと思っていたものの、詳しく調べてみると何らかの財産が見つかったケースも珍しくありません。
調査を進めると、家族が把握していなかった財産が見つかることもあります。
まず、預貯金については、被相続人の遺品を確認し、金融機関通帳やキャッシュカードを探しましょう。
インターネットバンキングを使用している場合は、スマホやパソコンを確認すると、利用していた金融機関がわかることがあります。
不動産については、権利証や登記情報通知書の有無を確認します。銀行の通帳を確認し、固定資産税の引き落としがある場合は不動産を持っている所有していると考えられます。
相続財産調査で忘れてはならないのが、借金や債務に関することです。
財産はプラスのものだけではなく、借金などマイナスの財産もあり、これらも遺産相続の対象となります。
特に、注意しなければならないのが、連帯保証です。友人の借金について連帯保証していた、親族の会社の借金について連帯保証人になっていた場合には、それも相続してしまうので、よく調べる必要があります。まだ、借金が継続していて連帯保証の履行を求められていない場合でも、将来借金の返済が滞ると、連帯保証を相続した相続人に対して、その履行が求められることになるからです。
プラス財産よりマイナス財産が多い場合は、相続を放棄しないと負債を引き継ぐことになります。
相続を放棄する場合は、相続開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所へ申述します。
遺産分割協議
遺産分割協議とは、相続人同士が遺産の分配方法について話し合う手続きです。
具体的に誰がどの遺産を相続するのか確定していくことになるので、この段階に進む前に、相続人と相続の対象となる遺産をきちんと明確にしておかなければなりません。
なお、法律では、誰がどのくらいの割合で遺産を相続するのか「法定相続」として定められています。
この法定相続分どおりに相続する場合は、遺産分割協議書の作成は不要になるのではないかと思われる方もいらっしゃるのではないかと思いますが、銀行での手続、不動産ん登記手続等を考慮すると、遺産分割協議書の作成は必要です。です。
また、故人が遺言書を作成していた場合は基本的に遺言書の内容に沿って遺産を分割することになるので、同様に遺産分割協議書の作成は不要となります。
ただし、遺言に記載のない財産があとから見つかった場合などのことを考え、トラブルを防ぐために遺産分割協議でその際の対応を取り決めておくことは有効です。
この場合は遺産分割協議書も作成しておきましょう。
遺産分割協議を行う場合は、相続人全員が参加しなければならず、1人でも欠けると協議は無効です。
しかし、相続人の住んでいる地域が離れているなどのケースでは、一度に全員集まるのが難しいこともあるでしょう。
このような場合は、何度かに分けて協議したり、電話、オンラインで話し合う方法を取ることもできます。
遺産分割協議書作成
遺産分割協議の内容がまとまったら、それを正式な書面としてまとめるための遺産分割協議書を作成します。
書式に厳密な決まりはありませんが、一般的に以下の内容を記載しましょう。
【遺産分割協議書に最低限含めておくべき内容】
- 被相続人の名前・死亡日
- 相続人が遺産分割内容に合意していることを示す内容
- 具体的な相続財産の内容
- 相続人全員の名前・住所
- 相続人全員の実印の押印
相続人全員が署名・実印の押印を行います。
そのため、あらかじめ印鑑証明書を全員が取得しておくと、手続きを円滑に進められます。
印鑑証明書を添付し、相続人全員が同じ書類を1通ずつ保管します。
仮に後から遺産分割協議書に記載した内容を変更する場合は個人で勝手に行うことができず、相続人全員の合意が必要になります。
遺産分割協議書は、預金の名義変更や払戻、株式・不動産・自動車の名義変更、相続税申告などで必要です。
そのため、早い段階で作成しておくとよいですが、作成後に誤りや漏れが見つかると修正が必要になり、手続きが煩雑になります。
作成時には十分に内容を確認し、慎重に進めましょう。
相続税の申告・納税
相続税の申告が必要な場合、被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内に行うことになります。
期限を過ぎた場合は延滞税や加算税が発生するので注意しましょう。
相続税は、すべての遺産の評価額を合計し、基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合に相続税が課税されます(※)。
なお、不動産や株式の評価などは専門的な知識が必要となるため、自分で相続手続きを行う場合でも、計算については税理士に相談したほうがよいでしょう。
計算ミスで納税額を誤った場合は修正申告が必要となり、申告期限を過ぎると延滞税が加算されます。
(※)
不動産登記
不動産を相続する場合は、その不動産を相続登記しなければなりません。
令和6年4月から相続登記が義務化されています。
不動産を取得した相続人は、その所有権を取得した事実を知った日から3年以内に相続登記の申請が必要です。
登記を行わない場合は不動産登記法第164条違反となり、10万円以下の過料が科されることがあります。
第百六十四条 第三十六条、第三十七条第一項若しくは第二項、第四十二条、第四十七条第一項(第四十九条第二項において準用する場合を含む。)、第四十九条第一項、第三項若しくは第四項、第五十一条第一項から第四項まで、第五十七条、第五十八条第六項若しくは第七項、第七十六条の二第一項若しくは第二項又は第七十六条の三第四項の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する。
(※)
法務局で登記の手続きを行いましょう。
相続税の申告・納税
相続税の申告が必要な場合、被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内に行うことになります。
期限を過ぎた場合は延滞税や加算税が発生するので注意しましょう。
相続税は、すべての遺産の評価額を合計し、基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合に相続税が課税されます(※)。
なお、不動産や株式の評価などは専門的な知識が必要となるため、自分で相続手続きを行う場合でも、計算については税理士に相談したほうがよいでしょう。
計算ミスで納税額を誤った場合は修正申告が必要となり、申告期限を過ぎると延滞税が加算されます。
(※)
預貯金の払い戻し
預貯金を相続した場合は、金融機関に届け出を行い、払い戻しを受けましょう。
手続きは原則として相続人全員で行う必要がありますが、全員が金融機関に出向くのは現実的ではありません。
そのため、実務では代表相続人を1人定め、その方が手続きをまとめて行うケースが一般的です。
預貯金の相続手続きは次の流れで進みます。
【預貯金関係の相続手続きの流れ】
- 金融機関に被相続人が死亡したことを届け出る
- 口座の凍結手続き
- 金融機関から相続届を受け取り、提出する
- 指定した口座への入金や名義変更が行われる
他の相続人による無断引き出しを防ぐためにも、早めに金融機関へ被相続人の死亡を届け出て口座を凍結しておきます。
しかし、凍結中は公共料金の引き落としなどができません。
引き落とし口座となっていた場合は事前に公共料金の名義変更などを行っておきましょう。
なお、相続届には原則として相続人全員の署名と押印が必要です。
代表相続人は、遺産分割協議書、戸籍謄本、相続人全員の印鑑証明書など必要な書類を取りまとめて金融機関に提出します。
手続き上は、故人の預金は一度代表相続人がすべて受け取る形となりますが、その後は相続人全員で合意した内容に基づいて分配する必要があります。
株式名義の変更
株式を相続するケースでは名義変更手続きが必要です。
上場株式である場合は、被相続人が取引を行っていた証券会社等の金融機関で手続きしましょう。
注意点として、相続人が同じ金融機関に証券口座を持っていない場合は、事前にその金融機関で証券口座を開設しておく必要があります。
非上場株式の場合は、株式を発行している会社で名義変更手続きを行います。
自動車名義の変更
自動車を相続した場合は、名義変更の手続きを行います。
注意点として、故人が使用していた車であっても、所有者が故人とは限りません。
ローンで購入した車は、クレジット会社やディーラーが所有者になっている場合があります。
自動車検査証で所有者を確認しましょう。
ローンが残っている場合は、完済後に所有権を解除してから名義変更を行います。
相続手続きで必要になる主な書類
相続を自分で行う場合、必要になる書類を集めるのには時間がかかると考えておきましょう。
ここでは、相続のために集めなければならない主な書類について解説します。
被相続人の戸籍謄本
相続人を確定するために必要となるのが、被相続人の戸籍謄本です。
出生から死亡までの全ての戸籍をそろえましょう。
本籍地の市区町村役場役所窓口で発行が可能です。
郵送での取り寄せも可能ですが、1週間以上かかる場合があります。
被相続人の住民票の除票
被相続人が亡くなると死亡届が提出され、住民登録は抹消されます。
この住民登録が抹消されたことを示す書類が除票です。
被相続人が亡くなった時点での住所地の市区町村役場役所窓口で取得できます。
相続人の戸籍謄本
被相続人との関係を証明するため、相続人の戸籍謄本が必要です。
以前は本籍地の市区町村の役所窓口に申請しなければなりませんでしたが、戸籍情報連携システムの導入により、最寄りの役所窓口で請求できます。
相続人の印鑑証明書
遺産分割協議書や各種名義変更手続きを行う際には、相続人の印鑑証明書が必要です。
実印が本人のものであることを示すための書類で、市区町村役場役所窓口で発行できます。
残高証明書
残高証明書とは金融機関から発行してもらう書類で、被相続人の口座残高を証明するためのものです。
相続税申告の際に相続財産に関する書類として用意しておかなければなりません。
被相続人が利用していた金融機関で発行してもらいましょう。
遺言書または遺産分割協議書
相続財産の分配方法について、遺言書がある場合はその内容が優先されることになります。
遺言書がある場合は用意しておきましょう。
手書きで作られた自筆証書遺言については家庭裁判所での検認手続きが必要ですが、公正証書遺言の場合、検認は不要です。
遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、その内容を記載した遺産分割協議書を作成しておきます。
登記事項証明書
被相続人が所有していた不動産の名義や権利関係を確認するために必要なのが、登記事項証明書(登記簿謄本)です。
不動産の相続登記を行う場合に必要になります。
法務局で入手が可能です。
登記申請書
登記申請書は、相続登記の際に提出する書類です。
法務局で入手できるほか、法務局のWebサイトからダウンロードして印刷することも可能です。
なお、登記事項証明書に記載されている通りに不動産の情報を記入しなければならないので、登記事項証明書も取得しておきましょう。
固定資産評価証明書
固定資産評価証明書とは、相続登記や相続税の申告の際に必要となる書類です。
不動産の評価額が記載されています。
不動産のある市区町村役場役所窓口で取得できます。ただし、複数の土地や建物がある場合は、それぞれの所在地の市区町村で手続きが必要となるため、取得に時間を要することがあります。
相続手続きを専門家に依頼するべきケース
相続手続きを自分で行う場合の書類を紹介しましたが、弁護士などの専門家へ依頼すべきケースもあります。
特に以下の4つに該当する場合は専門家を頼ったほうがよいでしょう。
相続する人数が多い
基本的に自分で相続に関する手続きが可能なのは、遺産分割などに関して相続人の合意がスムーズに得られるケースのみと考えておきましょう。
相続する人数が多いほど相続人全員の合意を得ることは難しくなります。
1人でも遺産分割協議の内容に同意しない相続人がいる場合は、手続きを進められません。
また、相続人が多ければそれだけ連絡ややりとりをしなければならない人が増えることになります。
トラブルを避けるためにも専門家に依頼することを考えましょう。
借金や負債がある
借金や負債がある場合、相続開始を知ってから3か月以内に相続放棄を申し出なければなりません。
ですが、親族が亡くなったあとは何かと忙しく過ごすことになり、申請期限を過ぎてしまうこともあります。
故人の借金や負債を相続する事態を避けるためにも、早めに専門家へ相談することが重要です。
相続人同士の仲が悪い
自分で相続手続きを行う際にトラブルになりやすいのが、仲の悪い相続人がいる場合です。
相続人同士が反発し合い、話し合いが進まないケースもあります。
場合によっては大きなトラブルに発展する可能性があるため、自分たちだけでの対応は避けることが望ましいといえます。
時間に余裕がない
時間的な余裕がない場合、急いで各種手続きを進めていかなければなりません。
仕事などで時間が取れない場合だけではなく、相続税の申告期限などが迫っている場合も同様のことがいえます。
相続手続きでは、市区町村役場役所窓口や金融機関、法務局など複数の機関を行き来することになるため、まとまった時間を確保できない方が自分で手続きするのは難しいといえるでしょう。
スムーズに手続きを進めるためには、弁護士などの専門家へ依頼する方法もあります。
相続は無理に自分で進めず専門家に相談しよう
いかがだったでしょうか。
相続手続きを自分で行いたい方に向けて、必要書類や確認すべきポイントをまとめました。
用意しなければならない書類の数が多いことに加え、専門性が高く、思い通りに進まないことが少なくありません。
相続手続きは専門性が高いため、状況に応じて専門家へ相談することが重要です。
東京で相続・遺産分割に強い弁護士をお探しの方は、ぜひ青山東京法律事務所にご相談ください。
家族に関するさまざまな問題への対応実績があり、それぞれのケースに応じたサポートを提供しています。
監修者
植田 統 弁護士(第一東京弁護士会)
東京大学法学部卒業、ダートマス大学MBA、成蹊大学法務博士
東京銀行(現三菱UFJ銀行)で融資業務を担当。米国の経営コンサルティング会社のブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルタント。
野村アセットマネジメントでは総合企画室にて、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。その後、レクシスネクシス・ジャパン株式会社の日本支社長。
米国の事業再生コンサルティング会社であるアリックスパートナーズでは、ライブドア、JAL等の再生案件を担当。
2010年弁護士登録。南青山M's法律会計事務所を経て、2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論の講義を行う他、Jトラスト株式会社(東証スタンダード市場)等数社の監査役も務める。



