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企業法務とは?役割・業務内容・弁護士の選び方をチェック
事業活動に関わる法律全般を「企業法務」と呼びます。
企業が信用を維持・向上させ、従業員とのトラブルを未然に防ぐためには、
企業法務への深い理解が欠かせません。しかし、専門性が高いため、
詳細を十分に把握できていない方も多いのではないでしょうか。
本記事では、企業法務の概要や役割、主な業務内容について詳しく解説します。
また、弁護士に依頼する際の選び方や注目すべきポイントも紹介しますので、
ぜひ参考にしてください。
目次
企業法務とは
企業法務とは、企業活動を行う上で発生する恐れのある法律問題への予防や対応、指導などに関する活動・業務のことをいいます。
例えば、トラブルを未然に防ぐための「予防法務」や、
法律面から新規事業戦略をサポートする「戦略法務」などが含まれます。
企業内に法務部が設置されている場合、弁護士と協働して法的対応を行う体制をとる企業が多く見られます。
当然のことながら、企業は企業活動に責任を持ち、法律に抵触することなく活動を行っていかなければなりません。
ですが、法律に関する部分は非常に専門性が高いこともあり、意図することなく法令違反に至るリスクを完全に排除することは困難です。
企業法務では予防法務でトラブルを予防し、発生してしまったトラブルに対しては臨床法務で対応していきます。
また、経営戦略のサポートを行う戦略法務も企業法務の一つです。
このように企業法務は企業の信頼性を確保するのに必須であるほか、企業価値の向上にも不可欠な要素とされます。
企業法務の役割と重要性
企業法務の主な役割の一つは、法的トラブルを未然に防ぐことです。
トラブル発生後の対応は時間がかかるだけでなく、企業の信頼性を損なう原因にもなります。
企業法務に取り組むことにより、契約書や労務環境、社内規定といったものを整備することが可能なため、法的なトラブルを防ぎやすくなるでしょう。
また、仮に法的な問題が起こってしまった場合でも、原因をいち早くつきとめ、迅速に解決するのも企業法務における役割といえます。
法的なトラブルが発生したために急激に企業の信用が失われてしまうことは珍しくありません。
このような事態を防ぐためにも非常に重要であるといえるでしょう。
企業法務の業務内容
企業法務の業務内容は多岐にわたります。
担当する主な業務は以下の7種類です。
リーガルチェック
リーガルチェックは、契約書や規約などの法的な妥当性を確認する作業です。
不備のある契約書はトラブルの原因となるため、
法的に適切な内容で作成することが重要です。
企業法務担当者は内容に問題がないか、企業にとって不利な条項やリスクがないかなどを確認します。
コンプライアンス対応
コンプライアンス対応は、企業の社会的信用を守るために不可欠です。
法令遵守体制の整備や社内研修、内部通報制度の構築などを担当します。
労働環境・労働問題に関する業務
労務トラブルは企業の評判を損なう要因となり、場合によっては賠償責任が発生する恐れもあります。
企業法務担当者は、パワハラやセクハラ、残業代の未払い、就業規則違反など、従業員との間で発生する法務問題に的確に対応する必要があります。
こうした労働問題への対応の前に、会社が、日ごろから、労働基準法や労働安全衛生法、就業規則等の社内規定を順守しているかをチェックしていくことも必要です。
債権回収・債権管理
取引先からの代金未回収も企業法務が担当することになります。
代金が支払われない場合は、交渉や法的手続きを講じる必要があります。
まずは、内容証明郵便を送り支払いを催促する。それでも対応してもらえない場合には、仮差押えを行う。そして、最後に訴訟を提起し判決を得るという手続を踏んでいくことになります。
知的財産権に関する業務
知的財産権は、製造業ばかりでなく、出版・放送・音楽等のメディア業界での富の源泉となっています。
そのため、他社の知的財産権をコピーし、不正使用しているところが出てきています。
その一方で、知的財産権の中身には、商標権、著作権、特許権等多くのものがあり、どれが保護対象かがわかりにくいこともあり、ある会社が他社の知的財産権をうっかり侵害しているようなケースもあります。
その結果、権利者と侵害者との間で多くのトラブルが発生します。こうした場合には、弁護士や弁理士と協力しながら、的確かつ迅速にトラブルの収拾を図ることが必要になります。
株主総会に関する対応
株主総会を開催するにあたり、招集通知や議案作成、議事録の作成、議決の手続きといった法的対応を行います。
上場会社では、アクティビストの活動も盛んになっており、株主提案への対応、質問への対応等も行っていかなければなりません。
会社の最高の意思決定機関である株主総会を間違いなく実施することは、企業経営の根本ですので、弁護士の助けが必要です。
M&Aや事業承継に関する業務
他社の買収や合併、または自社を売却するM&A、事業承継を行うことになった場合、関連する契約の作成、法律問題の調査(デューデリジェンス)、交渉、各種届出等の手続きを行います。
短い時間の間に幅広い業務が求められるため、弁護士との連携が欠かせない要素となります。
企業法務に関する法律
企業法務と一口に言っても、その取り扱う法律は多数あります。民法や商法や独占禁止法は、会社の取引に関わっています。
株主総会、取締役会等の会社の組織運営は、会社法で規律されています。
この他にも、労働問題は、労働法により規制されており、商標権、著作権、特許権等は、知的財産権法により規制されています。
企業活動には、多くの法律が関わっていますので、以下に主だったところを解説します。
民法・商法・会社法
民法は、売買契約や請負契約等、会社の取引行為に関わっています。
商法とは、商人の営業や商行為、その他商事などに関する法律で、民法を補足しています。
会社法は会社の設立に関することや組織、運営、管理などについて定めた法律です。
会社法だけでも、条文数は1,000条近くある上に、一つ一つの条文が長く、かつ、複雑ですので、弁護士であってもその理解には苦労します。ましてや、会社の法務部で対応するのは困難です。
弁護士であっても、企業法務になじみの薄い弁護士は、会社法を隅から隅まで知っているものではありません。
企業法務を依頼する弁護士を探す際は、会社法に関する十分な知識と経験を有しているか事前に確認する必要があります。
労働法
近年では、セクハラ、パワハラ、残業代問題、不当解雇等など、多数の問題が生じているので、企業法務の重要分野です。
労働法と一口に言っても、以下のような多数の法律が含まれています。
【労働法に含まれる法律一例】
- 労働基準法
- 最低賃金法
- 労働安全衛生法
- 労働組合法
- 労働契約法
- 職業安定法
- 男女雇用機会均等法
- 労働者派遣法
このほかにも労働に関わる法令は多々あり、働くことに関する法律をひとまとめにして「労働法」と呼んでいます。
紛争になると、労働審判が申し立てられるケースが多く、そこでは労働者側に有利に議論が展開されることが多いようです。
法律ばかりでなく、労働審判等の紛争解決について経験のある弁護士を探すことが大切です。
個人情報保護法・GDPR
個人情報保護法は、個人情報を取り扱う事業者が遵守すべき共通のルールを定めた法律です。
個人情報保護法では、個人情報の取得・利用、保管・管理、第三者への提供、本人からの保有個人データの開示請求などに関する規定が定められています。
個人情報の不適切な取り扱いによる漏えいは、大きなトラブルに発展する可能性があります。
個人情報保護法に精通した弁護士に相談することが重要です。
消費者保護法
商品やサービスを提供する事業者と消費者の間には、情報や交渉力において格差が生じることがあります。
そのため、消費者が不利な立場に置かれないようにするための法律が、消費者保護法です。
消費者を保護する複数の法律を総称して「消費者保護法」と呼びますが、その中身は多数の法律で構成されています。
【消費者保護法に含まれる法律一例】
- 消費者契約法
- 特定商取引法
- 景品表示法
- 割賦販売法
特にECサイトやBtoCサービスでは、消費者からのクレームに注意する必要があります。
特定商取引法に違反した場合、業務改善指示や業務停止命令、業務禁止命令が出される可能性があります。
トラブルが発生しないよう、消費者保護法に精通した弁護士と契約しておくことで、適切な社内体制を整備しておくことが重要になります。
知的財産法
知的財産法とは、知的財産に関する法律の総称です。
以下のようなものをひとまとめにして知的財産法と呼びます。
【知的財産法に含まれる法律一例】
- 特許法
- 実用新案法
- 意匠法
- 商標法
- 不正競争防止法
- 著作権法
企業は、基礎的な知識として知的財産法に関することを押さえておかなければなりません。
例えば、高度な科学技術を用いて行っている創作に関しては、特許権の出願を検討することになります。
製品の名称やマーク、ロゴなどを保護するためには、商標権の出願が必要です。
つまり、自社の技術やブランド、コンテンツといったものが不正使用されるのを防ぐため、速やかに出願し、登録しておくことが必要になります。
著作権に関しては原則として特に登録は必要ありませんが、著作権の盗用を防ぐためには、その存在を表示しておくことが必要です。
すべての知的財産権の存否が、それを使用した製品や著作物からわかるものではありませんので、他社の知財をうっかり侵害してしまうこともあり得ます。
対応によっては損害賠償や、製品の回収が必要となるような重大なトラブルに発展する可能性もありますので、十分な注意が必要です。
知的財産権に関連したトラブルなどが発生した際は基本的に弁護士が対応することになるので、信頼できる弁護士を探しておきましょう。
倒産法
倒産法とは、倒産処理に関する法律の総称です。
【倒産法に含まれる法律一例】
- 民事再生法
- 会社更生法
- 破産法
企業の資金繰りが悪化し、支払いに窮するような場面に直面した場合、再建を目指すのか、清算をするのかを考え、それに適した対処をしていかなければなりません。
どのように決断していくのかの判断は、初めてこうした事態に直面する企業には全く経験がなく、どのように考えていったらよいのかがわかりません。
倒産法に詳しい弁護士に相談し、その助言に従って、適切な判断をしていきましょう。
企業法務に強い弁護士の探し方
弁護士資格があっても、企業法務に精通しているとは限りません。
個人を顧客とする一般民事と企業向けの法務では求められる知識や経験が異なるためです。
ここでは、企業法務に強い弁護士の探し方について解説します。
インターネットで探す
できるだけ幅広く情報を収集したいと考えた際に役立つのが、インターネットを用いた方法です。
企業法務弁護士を紹介してくれる知り合いがいない場合でも、インターネットを使えば自分の力で弁護士を探すことが可能です。
多くの弁護士は事務所のWebサイト上で経歴や得意分野、これまでに担当してきた事例などを紹介しているので、これらの情報をチェックしてみましょう。
また、弁護士に特化した検索サイトやデータベースがあるので、これらを活用するのも有効です。
紹介してもらう
自身でインターネットを活用して弁護士を探し相談に行ってみたものの、想像と異なるタイプの弁護士である場合もあります。
経営者仲間や知人から信頼できる企業法務弁護士を紹介してもらうのが良いでしょう。
知り合いから紹介を受ける形であれば事前にその弁護士の雰囲気や実力などについて確認できるので、大きな失敗のリスクを軽減できます。
書籍から調べる
法律専門誌や業界誌などの書籍を参考にする方法もあります。
弁護士の紹介記事や事例などが掲載されていることもあるので、参考になるでしょう。
また、自社が抱えている課題などに関する書籍を出版している弁護士がいれば、その人の書籍を読んでみるのもおすすめです。
課題に対し、どういったアプローチを行うのか、どのような考え方を持つかを理解したうえで、検討に役立てることができます。
企業法務に精通した弁護士を選ぶ際に確認すべきポイント
企業法務に精通した弁護士と契約を結んだら、長く付き合っていくことになるでしょう。
企業にとって重要な業務や課題の解決を任せることになるので、信頼できる弁護士を選ぶことが欠かせません。
そのためには、以下の4つのポイントを確認しておきましょう。
企業法務に関する実績があるか
必ず満たしていなければならない条件として挙げられるのが、企業法務に関する知識や経験が十分であることです。
弁護士資格を持っているのであれば企業法務を依頼することは可能ですが、必ずしも企業法務分野に強いとは限りません。
例えば、これまで交通事故や離婚事件を中心に取り扱ってきており、企業法務に関する知識・経験がほぼない弁護士もいます。
過去の実績を確認することが不可欠です。
自社の業種や悩みに対応できるか
企業法務に関する実績があり、かつ自社の業種・悩みについて深く理解してくれる弁護士を選びましょう。
企業法務弁護士選びで失敗しないためには、自社の業界や業種に精通している弁護士を選ぶことが重要です。
自社の業界・業種についての知識がほとんどない弁護士を選んでしまった場合、その業界・業種特有のリスクや課題に即した法的助言を行うのは難しいと考えられます。
一方、自社の業界や業種に精通している弁護士を選べば、法律の専門家として企業側では気づけなかったリスクやトラブルの予防について適切な助言を受けられるでしょう。
相談しやすいか
実績や専門性に加え、相談しやすいかどうかも重要なポイントです。
どれだけ実力のある弁護士だったとしても、契約書の確認やトラブル対応など早急な対応が求められる場面で話しにくい弁護士では気軽に相談できません。
小さな問題の相談などが先送りになってしまい、結果的にトラブルにつながってしまう可能性も考えられます。
相談しやすいかについては、初回相談時にしっかりと見極めておきましょう。
例えば、威圧感があったり、専門用語ばかりでわかりにくかったりする弁護士は慎重に検討しなければなりません。
こちら側が行った質問に対し、明快に答えてくれるかも確認しておきたいポイントです。
相談方法についても対面、電話のみなのか、メールやLINEでも相談できるのかなども確認しておくことをおすすめします。
相談者に寄り添ってくれるか
初回相談時の対応が相談者の方を向いているかをよく確認しておきましょう。
質問に対し、わかりやすく資料や事例を交えて具体的に回答してくれる弁護士は対応が丁寧だといえます。
態度や言葉遣いに関しても相談者に寄り添ってくれる弁護士を選ぶと良いでしょう。
弁護士側が一方的に話をするのではなく、しっかりと対話してくれるかも重要です。
相談内容をわかりやすくメールでまとめてくれたり、上司に報告しやすいように相談した内容などに関する資料を作成してくれたりする気遣いが見られる弁護士は、契約後も顧客目線での対応が期待できます。
企業法務弁護士選びで失敗しないためには?
企業法務弁護士と契約したものの、失敗したと感じてしまう方もいるようです。
このような事態を防ぐためには、費用の安さだけで決めないこと、サービス内容を理解せずに決めないことといった2つに注意しましょう。
それぞれ解説します。
費用の安さだけで決めない
企業法務弁護士と契約してサポートを受ける以上、どうしても費用がかかります。
費用だけを重視して弁護士を選ぶと、思わぬトラブルやサポート不足につながる恐れがあります。
弁護士の費用は自由に設定可能です。
高額な費用を設定している弁護士もいる一方で、相場よりも大幅に安い金額で引き受けてくれる弁護士を探すのも不可能ではありません。
ただし、何事にも裏表があり、安いということは、企業法務弁護士としての実績がほとんどない、スキルが低いことを意味しているのかも知れません。
弁護士についても、何らかの商品を選ぶのと同じように、質と価格のバランスを考慮して、慎重に選んでいくことが必要です。
サービス内容を理解せずに決めない
契約しようと考えている方の多くは、弁護士を使った経験が豊富というものではありません。
そこで、なんとなく感触の良かった弁護士と契約をしてしまうものですが、契約をする前に、やってくれる仕事の内容を細かく説明してもらい、自分が何に対してお金を支払うのか、その金額が適正であるのかを検討しておいた方がよいと思います。
こうした説明がうまくできる弁護士こそが、経験の豊富な腕のいい弁護士である可能性が高いと思います。
企業法務は企業法的課題・リスク対策のために重要
本記事では、企業法務の概要や役割、業務内容、
弁護士選びのポイントについて解説しました。
企業法務は、経営を進めていく過程で直面する、法的課題を解決するために重要な役割を果たすものです。
いい企業法務弁護士を探すことができれば、経営者は安心して経営を進めていくことができるようになります。
青山東京法律事務所は、製造業、建設業、小売業、サービス業等の分野で多数の企業法務案件を扱っています。
また、4名の弁護士は、すべて事業会社での勤務経験を有していますので、企業活動の過程でどのような法律問題が起きるか、会社と取引先との取引関係がどういうものであるか等の知識を保有しています。
青山東京法律事務所は、こうした経験を活かし、企業の皆さまに、迅速で質の高いサービスを提供することが可能ですので、企業法務弁護士をお探しの方は、ぜひ青山東京法律事務所へお問い合わせください。
監修者

植田 統 弁護士(第一東京弁護士会)
東京大学法学部卒業、ダートマス大学MBA、成蹊大学法務博士
東京銀行(現三菱UFJ銀行)で融資業務を担当。米国の経営コンサルティング会社のブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルタント。
野村アセットマネジメントでは総合企画室にて、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。その後、レクシスネクシス・ジャパン株式会社の日本支社長。
米国の事業再生コンサルティング会社であるアリックスパートナーズでは、ライブドア、JAL等の再生案件を担当。
2010年弁護士登録。南青山M's法律会計事務所を経て、2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論の講義を行う他、Jトラスト株式会社(東証スタンダード市場)等数社の監査役も務める。