労働問題-偽装請負

偽装請負という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

偽装請負とは、形式的には業務の請負ですが、実態は労働者派遣であるもののことを言います。

ちょっとわかりにくいので、もう少し説明していきましょう。

仕事の発注元をA社、請負会社をB社、その請負会社で働く労働者をCとしますと、本当の請負ならば、A社がB社に仕事を発注し、B社はその仕事を完成してA社に引渡すことになりますが、Cを指揮命令するのは、B社です。

これに対して、偽装請負なら、B社はA社にCを派遣し、CはA社の指揮命令を受けて働くことになります。

どちらも同じことのように見えますが、A社のCに対する責任という点では、雲泥の差があります。つまり、A社とCの間に雇用契約が結ばれていれば、A社は、Cの健康保険や交通費・住宅関連の給付等の負担をする必要があります。Cの仕事に不手際があり、残業をさせれば、残業代も出さなければなりません。解雇も合理的理由がなければできません。仕事でミスがあり損害が発生した場合は、Cに重過失がない限り、責任を追及することができません。

しかし、請負契約ということになると、A社はCの仕事が満足いかないものであった場合、残業代を負担することなく、何度でもやり直させることができます。Cが仕事でミスをし、損害が発生した場合には、A社からB社への損害賠償請求も行うこともできます。

それなら、A社はB社から労働者派遣を受ければいいように思えますが、労働者派遣となれば、B社は法に規定されている許可・届出の手続きを受けることになり、派遣可能期間などの規制の下でCを働かせなければいけなくなります。

そこで、製造業、建設業、小売業等の派遣を多く必要とする業態で、幅広く偽装派遣が行われることになるのです。偽装派遣は、労働者Cにとっては、本来A社との直接の雇用契約となれば給与を100%受け取れるのに、B社が入ることで中間マージンを搾取され、収入が減ってしまというデメリットがあります。

こうした問題だらけの偽装派遣ですから、何とかこれをなくしていかなければなりません。そのために、平成28年改正で「労働契約申し込みみなし制度」が労働者派遣法に盛り込まれました。そして、それが適用されたのが、2021年11月の大阪高等裁判所の判決です。これは、床材大手の東リに対して、床材の製造工程で働いていた請負労働者である原告5人が、偽装請負だから、労働契約申し込みみなし制度が適用される結果、労働契約が成立していると訴えたものです。そして、大阪高等裁判所はこれを認めたのです。

労働者派遣法では、以下の5類型を違法派遣として、「労働契約申し込みみなし制度」が適用されるとしています。この⑤が適用されたのです。

①警備など派遣禁止業務での派遣受け入れ

②無許可業者からの派遣受け入れ

③事業所単位の派遣期間制限に違反

④個人単位の派遣期間制度(3年)に違反

⑤偽装請負での労働者受け入れ

これは高等裁判所の判決であり、東リは最高裁判所に上告したので、その判断を待つことになりますが、労働者の派遣を受ける企業としては、今後、偽装請負について厳しく対応していく必要がありそうです。

具体的には、次の3つのことを守っていくことが必要でしょう。

1.請負・派遣について理解すること

請負と派遣の法律上の違い、指揮命令権の違いを明確に理解する。

2.派遣元会社の情報や契約内容をチェックする

派遣元の会社が人材派遣業の許可を取得していることを確認し、派遣スタッフに派遣元との雇用契約書の写しを提出してもらう。

3.偽装請負とみなされるケースを把握する

適法となるケースだけでなく、偽装請負とみなされるケースを知っておく。例えば、

①発注元企業が直接指揮命令をしている

請負では指揮命令権は請負主にあるので、発注元が業務方法や労働時間など業務に関する指示命令を下すことはできません。

②発注元企業がスタッフを選定・評価している

請負では発注元企業がスタッフを選定したり人数を指定したりすることは許されません。スタッフを評価することもできません。

③発注元企業が服務上の規律を規定している

請負では指揮命令権は発注元企業ではなく請負主にあるので、発注元企業が自社の服務規定を守るよう労働者に通達・管理はできません。

東リの高裁判決が出たことで、今後は一層のコンプライアンス遵守が求められるようになりますので、企業は、偽装請負の理解を深め、コンプライアンス意識を徹底させていくことが必要です。