製造業の法律問題(Ⅳ)-営業秘密の保護

転職が盛んになるに伴って、従業員が企業の営業秘密を持ち出して、他社に持って行ってしまうという問題が発生するようになっています。こうした場合、企業はどのように対応していけばよいのでしょうか。

 

 

1 不正競争防止法による営業秘密の保護

従業員が社内から持ち出した情報が不正競争防止法上の「営業秘密」に該当する場合には、その持ち出し行為自体や漏洩、使用等の行為が同法上の不正競争行為(2条4号~10号)や営業秘密侵奪罪(同法第21条等)となる場合があります。この場合には民事上のみならず、刑事上の責任追及も可能となります。

 

2「営業秘密」の要件

不正競争防止法の営業秘密にあたる要件は、①秘密管理性、②有用性、③非公知性の三つです(第2条6項)。

 

① 秘密管理性

秘密管理性とは、その情報が客観的に秘密として管理されていることです。単に会社にとって秘匿性が高いというだけでは不十分で、その情報が会社にとって秘密としたい情報であることが客観的に示されていることが必要です。

 

具体的には、パソコン内のデータへのアクセス制限、書類へのマル秘表示等が考えられます。ただし、要求される情報管理の程度や態様は、秘密として管理される情報の性質、保有形態、企業の規模等に応じて事案ごとに異なってきます。

 

営業秘密の三要件のうち、最も問題となることが多いのがこの要件で、情報が持ち出されたり他社で使用されたりした際に、その情報が「営業秘密」であるといえるように、日頃から秘密管理性を備えた社内情報の管理体制を見直しておく必要があります。

 

 

② 有用性

有用性とは、有用な技術上または営業上の情報であることをいいます。

 

事業活動において有用であるか否かは、客観的に判断されることになりますが、顧客データ、製品の技術情報等については、有用性が広く認められています。

 

 

③ 非公知性

非公知性とは、その情報が公然と知られていないことをいい、一般的に知られていない状態、または容易に知ることができない状態であることです。

一般に入手可能な刊行物に記載されていたり、インターネット上で公開されている情報は、基本的には営業秘密として認められません。

 

 

3 営業秘密の持出し等があった場合の民事的措置

① 差止め請求

営業秘密侵害行為によって営業上の利益を害され、また、害されるおそれがある場合には、会社はその行為者に対して行為の差し止めを求めることができる。

 

② 損害賠償請求

会社は営業秘密侵害行為により自らが被った損害について、その行為者に対し損害賠償を求めることができる。

 

通常、損害賠償請求においては、問題となった行為と損害との因果関係、損害額の立証をすることが難しいのですが、不正競争防止法では立証の緩和のための損害額の推定規定が置かれているので、立証が容易になっています。

 

③ 信用回復措置請求

営業秘密侵害行為によって営業上の信用を害された場合は、その行為者に対して、信用の回復に必要な措置を取らせることができる。具体的には、謝罪広告や取引先に対する謝罪文の発送などです。

 

 

4 営業秘密の持ち出しに対する刑事的措置

不正競争防止法は、営業秘密の不正取得・領得・不正使用・不正開示のうち、下記の行為について、10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金(又はその両方)を科すこととしています(営業秘密侵害罪)。

 

① 図利加害目的で、詐欺等行為又は管理侵害行為によって、営業秘密を不正に取得する行為(1号

② 不正に取得した営業秘密を、図利加害目的で、使用又は開示する行為(2号)

③ 営業秘密を保有者から示された者が、図利加害目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、(イ)媒体等の横領、(ロ)複製の作成、(ハ)消去義務違反+仮装、のいずれかの方法により営業秘密を領得する行為(3号)

④ 営業秘密を保有者から示された者が、第3号の方法によって領得した営業秘密を、図利加害目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、使用又は開示する行為(4号)

⑤ 営業秘密を保有者から示された現職の役員又は従業者が、図利加害目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、営業秘密を使用又は開示する行為(5号)

⑥ 営業秘密を保有者から示された退職者が、図利加害目的で、在職中に、その営業秘密の管理に係る任務に背いて営業秘密の開示の申込みをし、又はその営業秘密の使用若しくは開示について請託を受け、退職後に使用又は開示する行為(6号)

⑦ 図利加害目的で、上記2、4、5、6項の罪に当たる開示によって取得した営業秘密を、使用又は開示する行為(7号)

 

 

いずれの行為も、図利加害目的で行う行為が刑事罰の対象であり、報道、内部告発の目的で行う行為は処罰の対象とはならないこと、営業秘密侵害罪は、犯罪被害者保護の見地から、親告罪(被害者による告訴がなければ公訴を提起することができない犯罪)とされていることも忘れないようにしてください。